Nhạc nềnPowder_Snow

二弟子の甘い嘘と、影から消え去る密偵たち

Audio truyện
Chưa có audio. Bấm để tự tạo audio cho tập này.

東雲の竹林に、穏やかな午後の陽光が木漏れ日となって降り注いでいた。緑豊かな竹葉がさらさらと風にそよぎ、道場の庭先には、静謐でどこか浮世離れした空気が満ちている。


 かつて正道最強の剣聖と謳われながらも、武林同盟の偽善に絶望して隠居した東雲薫(クオン)は、道場の縁側に腰掛け、お気に入りの茶をすすっていた。白磁の肌に映える漆黒の長髪をハーフアップにし、ゆったりとした白い道着をまとったその姿は、素朴でありながらも隠しきれない高貴なオーラを漂わせている。


「お疲れではありませんか、師匠? お茶のお代わりをお持ちしました」


 背後から、耳に心地よい柔らかな声が響いた。振り返ると、そこには二弟子のシオンが立っていた。緩やかに波打つ薄紫の髪に、切れ長の涼しげな瞳。常に優しげな笑みを絶やさず、仕立ての良い薄手の長衣を優雅に着こなす美青年だ。その頭髪には、薫がかつて手作りして贈った、魔力を増幅する青い組紐の髪飾りが大切に結ばれている。


「ありがとう、シオン。いつも気が利くわね」


 薫が微笑むと、シオンは嬉しそうに目を細め、彼女の傍らに静かに膝をついた。そして、細くしなやかな指先で、薫の肩を優しく揉みほぐし始める。


「ふふ、師匠の身の回りのお世話をするのが、私の何よりの悦びですから。……昨日、ふもとの村で金剛拳の鉄馬とかいう無礼者が暴れたと聞きました。師匠が木刀一本で片付けられたとはいえ、お体に障っては大変です。もっと私を頼ってくださいね?」


 シオンは首を少し傾げ、完璧に無害で愛らしい少年の笑顔――すなわち、薫の母性本能を極限まで刺激する「営業スマイル」を浮かべた。その甘えた声と従順な態度に、薫は内心で苦笑する。


(本当に、可愛いおねだりが上手な子……)


 だが、薫はただの世間知らずな女先生ではない。彼女には、相手の感情の揺らぎや魔性の覚醒度をオーラの色として視覚的に見破る特殊能力「天眼通(てんがんつう)」がある。


 薫が瞳の奥に微かな白銀の光を宿し、シオンを静かに見つめると、彼の全身からは薫への狂おしいほどの深い「好意(ピンク色)」のオーラが立ち上っていた。しかし、その奥底、魂の深淵には、冷酷で鋭利な「殺意と支配欲(黒黒とした鎖)」の魔気が、細い糸のように蠢いているのが見えた。


 シオンの正体は、大陸最大の暗殺組織「冥府閣」を裏で支配する冷酷な閣主。そして、千年前、世界を震撼させた魔教の「冷血参謀」の生まれ変わりなのだ。薫はそのすべてを知りながら、あえて気づかない振りをし、彼を「可愛い愛弟子」として扱い続けている。


「そんなに心配しなくて大丈夫よ。鉄馬程度、少し雑念を払ってあげただけだから。それより、肩を揉む手が少し冷たいわね。無理をしていない?」


「いいえ、師匠の温もりに触れているだけで、私はとても温かい気持ちになりますよ」


 シオンはさらに甘えるように、薫の肩にそっと頬を寄せた。だが、その切れ長の瞳の奥には、一瞬だけ、凍りつくような冷徹な光が走った。


(あの鉄馬というゴミめ……。師匠の美しい肌に触れようとしたばかりか、この隠居地を同盟に明け渡せと脅したそうですね。生かして帰しただけでも師匠の慈悲ですが……その背後にいる同盟の害虫どもが、さっそくこの竹林の周囲を嗅ぎ回っている。これ以上、師匠の平穏を脅かすことは、この私が絶対に許さない)


 シオンは薫に気づかれないよう、胸の内で冷酷な独占欲を滾らせていた。


「おや、シオン。また師匠を独り占めにして、ずる賢い狐め」


 庭の奥から、黒鉄の「破岩の大剣」を背負った長弟子のリュウガが、不機嫌そうに歩み寄ってきた。鍛え抜かれた長身と強靭な筋肉を持つ彼は、黄金の双眸を鋭く光らせ、シオンを睨みつける。


「あら、リュウガ兄様。私はただ、お疲れの師匠をお慰めしていただけですよ? 薪割りしか脳のない無骨な方には、このような繊細なお世話は無理でしょう?」


 シオンはふわりと微笑みながら、慇懃無礼に言い返した。二人の間で目に見えない火花が散り、覇王の覇気と暗殺者の気の糸が衝突しそうになる。


「これこれ、二人とも喧嘩はめよ」


 薫が木刀「静心」の柄をトントンと畳に打ち付けると、二人は一瞬で殺気を霧散させ、従順な弟子に戻った。


「そうだ、師匠。道場のお茶の葉が少し心細くなってきました。霧の竹迷宮の奥へ、新鮮な『静心草』と茶葉を摘みに行ってまいりますね。夕食の前には必ず戻りますから」


 シオンは立ち上がり、薫に向かって優雅に一礼した。


「そうね、お願いするわ。でも、あまり遠くへ行ってはだめよ、シオン。怪我をしたら、私が悲しむわ」


 薫のその優しい言葉に、シオンの心臓がドクンと激しく跳ね上がった。薫への狂おしいほどの愛着が、彼の魂に刻まれた「魂の血誓」と共鳴し、背中の見えない魔紋を微かに熱くさせる。


「……はい、師匠。あなたを悲しませるようなことは、絶対にいたしません」


 シオンはもう一度、完璧に無害な「営業スマイル」を浮かべ、籠を手に道場を後にした。リュウガがその背中を不審そうに見送っていたが、シオンは気にも留めず、霧深い竹林へと足を踏み入れた。


 ◇


 道場から十分に離れ、薫の「天眼通」の探知範囲から外れた瞬間――シオンの顔から、あの愛らしく従順な笑みが、まるで剥ぎ取られるようにして完全に消え去った。


 切れ長の瞳は氷のように冷たく澄み渡り、周囲の温度を物理的に数度下げるほどの、圧倒的な暗殺者の殺気がその身から噴出する。薄紫の髪が不穏な夜霧に揺れ、彼は冷酷な「冥府閣の閣主」としての本性を現した。


 シオンが立ち止まると、彼の足元の影が不気味に揺らめき、そこから一人の青年が音もなく這い出てきた。質素な庭師の服を着た、無口で目立たない青年――シオンの忠実な影であり、冥府閣の精鋭暗殺者である影零(カゲレイ)だった。


「閣主……」


 影零は地面に片膝をつき、深く頭を垂れる。


「状況を報告して、影零。私たちの美しい庭に、どんな汚いドブネズミが迷い込んだのかしら?」


 シオンの声は、薫の前で見せる甘いトーンとは完全に異なり、冷徹で抑揚のない、死を宣告するような響きを帯びていた。


「はっ。武林同盟・青葉宿支部が放った隠密(密偵)どもが五名、霧の竹迷宮の外縁に侵入しております。彼らは結界の隙間を特定するため、特殊な『探知の針』を仕掛け、道場の正確な位置を本部に送信しようとしております」


「探知の針……。なるほど、あの小悪党の鉄馬が、負け惜しみで本部に泣きついたというわけですね。本当に、目障りな虫けらどもだ」


 シオンは細い指先を顎に当て、冷ややかに笑った。


「師匠は、この静かな竹林で穏やかに暮らしたいと願っているのです。それなのに、同盟の偽善者どもは、自分たちの権益のためにその平穏を脅かそうとする。……これ以上、師匠の心を煩わせるゴミは、存在することすら許されません」


 シオンの指先が微かに動くと、袖口から目に見えないほど極細の黒い鋼糸が滑り出た。光を一切反射しないその糸は、触れるものすべてを音もなく切り刻む、彼の必殺の暗器「千糸万縛(せんしまんばく)」の糸だった。


「影零、案内しなさい。師匠が夕食の準備を始める前に、すべてを綺麗にお掃除してしまいましょう」


「御意」


 影零が再び影の中に沈み込むと、シオンもまた「冥府暗殺術・影渡り(かげわたり)」を発動。自らの肉体を陽炎のような黒い影へと同化させ、音もなく竹林の闇へと消え去った。


 ◇


「霧の竹迷宮」の最外周。不気味な幻術の霧が立ち込める竹林の中で、黒い隠密服をまとった五人の武林同盟の密偵たちが、慎重に足を進めていた。


「おい、本当にこの先にあの『元剣聖』の道場があるのか?」


「間違いない。鉄馬様が木刀一本で吹き飛ばされたという場所だ。地脈の霊気の流れが、この竹林の奥で不自然に屈折している。ここに強力な隠蔽結界が張られている証拠だ」


 リーダー格の男が、懐から霊力を帯びた「探知の針」を取り出し、地面に突き刺そうとした。この針を結界の結節点に打ち込めば、結界の構造を破壊し、同盟本部に正確な座標を送信することができる。


「よし、ここに針を打ち込むぞ。本部へ連絡を――」


 男が針を地面に突き立てようとした、まさにその瞬間だった。


「おや、そんな汚い針を私たちの庭に刺さないでいただけますか?」


 静かな、しかし背筋が凍るほど美しい声が、夜霧の奥から響いた。


「誰だ!?」


 密偵たちが一斉に武器を抜き、周囲を警戒する。だが、どこを見渡しても人影はない。ただ、竹林の影が不自然に長く伸び、彼らの足元を取り囲むように広がっていく。


「気配がない……!? どこから声を――」


 リーダー格の男が驚愕した瞬間、彼の足元の影から、薄紫の髪を揺らしたシオンが音もなく、ぬうっと立ち上がった。その顔には、満月のような美しい、しかし瞳に一切の光が宿っていない「無表情の笑顔」が浮かんでいた。


「なっ、影から――」


 男がとっさに緊急用の「伝令魔石」を起動しようとしたが、シオンの動作の方が圧倒的に早かった。


 シュッ、と鋭い風切り音が響く。シオンの指先から放たれた極細の黒い鋼針「影縫いの針(かげぬいのはり)」が、男の足元の影を正確に地面に縫い付けた。


「が、あ……っ!?」


 男は叫ぼうとしたが、喉の筋肉すらも凍りついたように動かなくなった。影を縫い付けられたことで、体内の経絡の流れが完全に遮断され、指一本動かすことも、霊力を起動することもできなくなったのだ。男の瞳に、極限の恐怖が浮かび上がる。


「まずは一人。……さあ、他のネズミたちも、静かにしてくださいね」


 シオンは優雅に両手を広げ、指先をピアノを弾くように細かく動かした。その瞬間、周囲の空間に、月光を微かに反射してきらめく無数の極細鋼糸「千糸万縛」が、蜘蛛の巣のように張り巡らされた。


「くそっ、囲まれた! 突撃して切り開け!」


 残りの四人の密偵たちが剣を構えてシオンに襲いかかろうとしたが、彼が一歩踏み出した瞬間、その肉体は目に見えない糸の防壁に接触した。


 プチプチ、と肉と骨が切れる、湿った不気味な音が竹林に響く。


「ひっ、腕が……!? 足が切れて――」


 一人の密偵が、自らの右腕が音もなく地面に落ちるのを見て、狂ったような悲鳴を上げようとした。しかし、その喉元にもすでに、シオンの鋼糸が冷たく巻き付いていた。


「静かに、と言ったでしょう?」


 シオンは人指し指を唇に当て、優しく囁いた。


「私の愛する師匠は、今、道場でお茶を飲みながら静かに過ごされているのです。あなたたちの汚い叫び声で、その美しいお耳を汚したくはありません」


 シオンが指先をキュッと引き絞る。


 次の瞬間、言葉を失った密偵たちの首と四肢が、一糸乱れぬ精密さで、同時に、音もなく切り刻まれた。肉塊が地面の落ち葉の上にドサドサと崩れ落ちる。飛び散る鮮血は、シオンが事前に張り巡らせた糸の結界によって空中で遮断され、彼の仕立ての良い長衣を汚すことは一滴すらなかった。


 生存確率は、最初からゼロだった。シオンの圧倒的な「暗殺術宗師」としての実力の前には、同盟の精鋭密偵すらも、ただの肉の塊に過ぎない。


「影零、お掃除の時間です」


 シオンが静かに告げると、影の中から影零が数人の冥府閣の暗殺者を引き連れて現れた。彼らは手慣れた様子で、密偵たちの遺体と武器を回収し、シオンが開発した特殊な消去毒を地面に散布する。数秒もしないうちに、血の跡も、肉の匂いも、すべてが土の中に溶けて消え去り、竹林は何事もなかったかのような静寂を取り戻した。


「ふぅ……。これで、庭の害虫は綺麗に駆除できましたね」


 シオンはふぅと息を吐き、指先から鋼糸を袖口へと収めた。そして、道場の方角を見つめ、再びあの甘え上手な愛弟子の表情を作ろうとした。薫の元へ戻り、彼女の膝枕で甘える自分の姿を想像し、彼の胸は甘美な悦びで満たされる。


 だが、その瞬間、シオンの身体が強張った。


 彼は自らの指先を鼻先に近づけ、微かに匂いを嗅いだ。……そこには、どんなに気をつけていても防ぎきれなかった、鉄錆のような、微かな、しかし決定的な「血の匂い」が残っていた。


「……しまっ、た……」


 シオンの切れ長の瞳に、初めて本気の「恐怖」と焦燥が浮かび上がった。


 師匠である東雲薫には、嘘や感情をオーラで見破る「天眼通」がある。それだけでなく、かつて最強の剣聖であった彼女の五感は、常人を遥かに超越して鋭い。もし、この指先に残った微かな血の匂いを嗅ぎ取られたら――。


(私が裏で人を殺していることが、師匠にバレてしまう……!)


 シオンの脳裏に、最悪の幻影が浮かび上がる。薫が自分を冷たい、軽蔑に満ちた目で見つめ、「お前のような冷酷な人殺しは、私の弟子ではない。今すぐここから出て行きなさい」と、冷たく突き放す姿。彼にとって、薫に見捨てられることは、死ぬことよりも恐ろしい、魂の崩壊を意味する絶望だった。


「嫌だ……それだけは、絶対に嫌だ……!」


 シオンの呼吸が急激に乱れ、額から冷や汗が流れ落ちる。彼は狂おしいほどの焦燥感に駆られ、その場に跪いた。そして、地面に生い茂っている野生のミントや香草を、狂ったように両手で毟り取った。


 シオンは毟り取った香草を、自らの白く繊細な手のひらで力任せに押し潰し、その強い汁を指先や爪の隙間に、何度も、何度も、皮膚が赤く擦り切れるほどの執念で擦り込み始めた。


「消えろ……血の匂い、消えてくれ……っ。師匠に、嫌われたくない……。私は、師匠の良い子でいなければならないのに……っ!」


 彼は爪が剥がれそうになるのも構わず、必死に香草を揉み込み、血の匂いを強烈な青臭いハーブの香りで上書きしようと身悶えするのだった。その瞳には、薫への異常なまでの、狂気的な執着の光が揺らめいていた。

HẾT CHƯƠNG

Chưa có bình luận nào. Hãy là người đầu tiên!