Nhạc nềnTaishoRoman_Theme2

集う鉄爪

Audio truyện
Chưa có audio. Bấm để tự tạo audio cho tập này.

「さらさら、さらさら……」


 妙音庵の瞑想の間を満たす静寂の底で、その不気味な液体の這う音が、白無痕の耳に届いていた。水よりも重く、乾燥した落ち葉の層にまとわりつくように染み込んでいく粘り気のある音。鉄梟が代官所から横領した軍用の「漆黒の可燃油」が、鳴竹林の四方に撒き散らされている。大気を流れる微細な臭気の中に、揮発した油の鋭い刺激臭が混ざり始めていた。


「無痕よ、行きなさい」


 対座する慧明住職の、静かだが引き締まった声が響いた。老僧の指先が、静かに数珠を繰る「カチ、カチ」という音が、無痕の脳内に彼の穏やかな輪郭を描き出す。


「ここはお前の戦場ではない。この古い寺をこれ以上の血で汚してはならぬ。それに、お前の耳の熱毒は、忘憂草の茶で一時的に抑えられているに過ぎない。このまま大軍勢の騒音と炎の轟音に包まれれば、お前の経絡は内側から焼き切れ、永久に沈黙の世界に堕ちるぞ」


「……慧明住職。しかし、彼らはこの庵ごと私を焼き殺すつもりだ」


 無痕は静かに応じ、傍らに置いた「大竹の仕込み杖」を握りしめた。両目は白い絹帯で固く覆われたままであり、世界は変わらず完全な闇である。だが、彼の耳はすでに、妙音庵を取り囲む大河原代官所の官兵たちの重い盾の進軍音を捉えていた。


「ゴォン、ゴォン……」


 数百枚の重い鉄盾が地面に叩きつけられ、逃げ道を物理的に塞ぐ「社会的包囲網」が完成しつつある。風哭谷の出口である「竹門関」は、すでに大河原派の兵力によって完全に封鎖されていた。無痕をこの谷の中で確実に圧殺するための、非情な包囲陣だった。


「谷の北側にある『鳴り石の洞窟』へ向かうのだ」と慧明は言った。「あそこは壁全体が硬い結晶岩でできており、音を何十倍にも反響させる。常人ならば数分と経たずにその残響で発狂する地獄の迷宮だが、風を聴くお前にとっては、最大の盾ともなろう。己の心の雑音を斬り、大気の震えを御するのだ」


 その瞬間、妙音庵の外で「カチリ」と火打ち石が鳴る極小の金属音が響いた。直後、凄まじい爆発音とともに、撒かれた可燃油が一気に引火した。


「バリバリ、バリバリッ!」


 燃え盛る竹が熱を帯びて破裂する大音響が、一瞬にして周囲を焦熱の地獄へと変貌させる。炎の熱風が肌を焼き、立ち上る黒煙が酸素を奪っていく。無痕の耳の奥で、再び「キィィン」という感覚熱毒の鋭い悲鳴が響き始めた。


(くっ……忘憂草の効果が、この熱気で薄れていく……!)


 無痕は「静水真気」を丹田の奥深くへと沈め、心拍数を強制的に四十以下に下げた。感情の乱れは死を意味する。彼は慧明に無言で一礼すると、妙音庵の裏口から白霧と黒煙が渦巻く竹林へと身を躍らせた。


 足裏から伝わる大地の震動が、追兵たちの動きを伝えてくる。鉄梟直属の精鋭部隊「鉄爪衆」の足音だ。重い鉄靴が泥を踏みしめ、金属の甲冑が擦れ合う「ガチ、ガチ」という不協和音。その先頭を走るのは、ひときわ重く、地響きのような足音を立てる男――鉄爪衆の長「剛爪(ごうそう)」だった。


「盲人の亡霊め、妙音庵から逃げ出したぞ! 奴を鳴り石の洞窟へ追い詰めろ! あそこの反響で耳を潰してやれ!」


 剛爪の傲慢な怒号が、燃え盛る竹林の騒音を突き抜けて響く。無痕は「落葉の静歩」を使い、自身の足音を完全に消しながら、闇夜の絶壁を縫うようにして「鳴り石の洞窟」の入り口へと滑り込んだ。


 一歩、洞窟の内部へ足を踏み入れた瞬間、世界から炎の熱気が消え去り、骨まで凍みるような冷気が無痕の皮膚を包んだ。だが、それ以上に彼を襲ったのは、異様な「音の圧力」だった。


「ポチャン……ン……ン……ン……」


 天井から滴り落ちるわずか一滴の水音が、結晶質の硬い岩壁に当たって何十倍にも増幅され、無限の残響となって耳の奥へと侵入してくる。自身の微かな呼吸音すらも、壁に跳ね返って巨大な風の唸りのように聞こえる。通常の人間ならば、この多重反響による音の暴力で三半規管を破壊され、数分で平衡感覚を失って発狂するであろう、極限の音響迷宮。


「ハァ、ハァ……」


 無痕の脳裏に、激しい眩暈が走った。感覚熱毒に侵された耳が、洞窟内の多重反響を処理しきれず、幻聴の嵐を巻き起こし始める。世界が歪み、足元の大地が揺れているかのような錯覚に陥る。仕込み杖を突く「コツ」という音すら、どちらの方向から跳ね返ってきたのか判別できない。


(落ち着け……音を聴こうとするな。大気の震えそのものと同調するのだ……)


 無痕は、かつて滝行の合間に風無涯から授かった補助呼吸法「震空息・初期」の口訣を思い出した。彼は喉の経絡を微細に振動させ、吐き出す息の周波数を、洞窟全体を支配する結晶岩の固有振動数へと同調させていった。体内で発生させた微弱な振動波が、周囲の大気に向かって目に見えない「探知の波紋」として同心円状に広がっていく。


 その時、洞窟の入り口から、激しい足音が侵入してきた。


「ガチガチ、ガチガチッ!」


 剛爪率いる鉄爪衆の精鋭五人が、両腕に鋼鉄の剛爪を装着し、獲物を狙う猟犬のように暗闇を駆けてくる。彼らの足音が結晶岩の壁に当たって「ダダダダダッ」と何重にも反響し、無痕の周囲に無限の幻影音を作り出していく。


「いたぞ! やはり耳を塞いで動けなくなっていやがる! 八つ裂きにしろ!」


 剛爪の命令とともに、二人の鉄爪衆が左右から同時に跳躍した。彼らの放つ剛爪が空気を引き裂く。だが、多重反響のノイズにより、無痕の耳には敵の正確な位置が掴めない。


(背後か? それとも右か……!?)


 無痕は直感に従い、右側に向けて大竹の仕込み杖を強引に振り抜いた。しかし、仕込み杖は冷たい空気だけを切り裂き、結晶岩の壁を「ガギィン!」と強打した。強烈な打撃の反動が腕を通じて脳へと逆流し、激しい火花が散るような痛みが走る。反響の読みを誤り、壁から跳ね返った音を敵の本体と誤認したのだ。


「ハハハ! 空振りだ! やはりただの盲人め!」


 死角である左側から、鋭い爪の風切り音が無痕の喉元へと迫る。無痕は間一髪のところで「脱皮の呼吸」を発動し、皮膚の表面に真気を集中させた。敵の爪が彼の灰色の衣服を切り裂き、皮膚の表面を「ツルリ」と滑るようにして逸れていく。衣服が裂け、冷たい風が傷口をなでた。


(このまま受動的に音を待っていては、残響に殺される。あえて、敵の音を私の『探知波』に変えるのだ……)


 無痕は再び「震空息・初期」の呼吸を整え、自身の心拍を洞窟の残響と同調させた。そして、仕込み杖の先端で、結晶岩の床を「コツン」と一度だけ叩いた。


 放たれた微細な音波が、突入してくる鉄爪兵たちの強固な甲冑に当たり、跳ね返ってくる。その瞬間、無痕の脳内に、完全な暗闇の中に潜む鉄爪兵たちの「骨格の輪郭」が、青白い立体的な地図となって鮮明に再構成された。「反響定位の開眼」――結晶岩の多重反響を逆手に取ることで、彼の脳内地図の解像度は、通常の十倍にまで引き上げられたのだ。


「――聴こえたぞ」


 無痕の表情から、一切の焦燥が消え去り、氷のような静寂が戻った。


 右側から迫る鉄爪兵が、地面を踏みしめる「結晶岩のきしみ音」――その一音だけが、雑音の中から黄金の光となって抽出される。無痕は仕込み杖のしなりを利用した「竹杖の反発撃」を放った。しなやかに曲がった竹杖が、大気圧の反発音とともに、鉄爪兵の膝裏の経絡を正確に強打する。


「ギャッ……!」


 骨が軋む鈍い音とともに、一人目の鉄爪兵が膝から崩れ落ちた。無痕はその崩落の反響を利用し、二人目の鉄爪兵の喉元へ、仕込み杖の先端を無音の軌道で突き出した。風切り音すら発生させない「無音の剣軌」が、男の喉を正確に貫く。男は悲鳴を上げることもできず、泥のように床へ倒れ伏した。


「な、何だと……!? 奴、この闇と残響の中で、俺たちの動きが完全に見えているのか!?」


 剛爪の呼吸が一瞬にして浅くなり、彼の心拍数が一分間に百二十回を超える「恐怖の鼓動」へと跳ね上がった。無痕はその乱れた心音を、洞窟の残響の中から冷徹に聴き取っていた。


 残された三人の鉄爪衆が、恐怖から一歩、後ろへと退がった。彼らの足裏が結晶岩を擦る微かな音は、無痕にとって、自身の居場所を教える最大の標識に他ならなかった。無痕は仕込み杖を構え、無音の歩法「落葉の静歩」で、彼らの死角へと滑り込むように間合いを詰めていく。


「バ、バケモノめ……! だが、この距離ならどうだ!」


 剛爪が恐怖をねじ伏せるように絶叫し、両腕の「鋼鉄の剛爪」を構えて無痕の目の前に立ち塞がった。彼が纏う重装甲の擦れ合う音が、洞窟全体に不気味な残響を広げていく。


 剛爪は、両手の鋭い鉄爪を「キィィン」と激しく擦り合わせた。結晶岩の壁がその摩擦音を何百倍にも増幅し、常人の鼓膜を直接引き裂くような強烈な高周波の音波となって、無痕の耳に襲いかかった。それは、無痕の脳内に「百の幻影音」を作り出す、最悪の音響攻撃だった――。

HẾT CHƯƠNG

Chưa có bình luận nào. Hãy là người đầu tiên!