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歪む経絡と毒の罠

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大演武場を支配していたざわめきが遠ざかり、白麗城の奥深くに位置する若家督の居室へと戻る廊下は、新無赫(シン・ムカク)にとって奈落へと続く一本道のようであった。一歩、また一歩と大理石の床を踏みしめるたびに、骨の髄から突き上げてくるような激痛が彼の細身の肉体を苛む。


「ぐ、う……」


 喉元までせり上がってきた熱い血を、新無赫は黒鉄の仮面の内側で強引に飲み込んだ。口内に広がる生暖かい鉄の味が、喉の粘膜を焼くように痛む。顎の鋭い隙間から滴り落ちたあの黒い血は、彼の肉体が限界を迎えている明確な証拠であった。


 柳雪桜(リュウ・セツオウ)の『飛雪剣法』。あの雪が舞い散るように美しく、そして冷酷な剣技を『万象眼(バンショウガン)』で透視し、自らの経絡を強引に変形させて模倣した代償は、あまりにも過酷だった。新無赫の肉体は、生まれながらの奴隷のそれであり、名門天剣宗の洗練された寒性の真気を流すようには作られていない。それを『鉄面流・百家模倣』によって強引に適合させた結果、彼の『経絡開通限界(ケイラク・カイツウ・ゲンカイ)』は完全に決壊していた。経絡の至る所に目に見えない微細な亀裂が走り、まるで全身の気脈にガラスの破片を流し込まれたかのような激痛が彼をのたうち回らせる。


(このままでは、内臓から崩壊する。走火入魔(ソウカニュウマ)の一歩手前だ……)


 居室の重厚な扉を閉め、監視役の侍女・お蓮(オレン)の目を一時的に逃れた瞬間、新無赫は畳の上に崩れ落ちた。黒鉄の仮面が床に衝突し、鈍い金属音を立てる。首元と額に食い込んだ起爆針が、彼の動きに合わせて肉を抉るように疼いた。


 新無赫は震える手で懐を探り、小さな陶器の小瓶を取り出した。中から一粒の黒い丸薬を取り出す。天剣宗の元お抱え医師であり、新無赫の「前代未聞の歪んだ経絡」に異常な医学的興味を抱いている隠居薬師・陶庵(トウアン)から、密かに処方された秘伝の治療薬『清心丹(セイシンタン)』であった。


 丸薬を口に放り込み、噛み砕く。強烈な苦味と泥の臭いと共に、冷涼な真気が食道から全身の気脈へと染み渡っていった。体内で暴走し、衝突し合っていた異なる性質の真気が急速に冷却され、引き裂かれかけていた経絡の亀裂が、薄い氷の膜で塞がれるように鎮静化していく。


「はぁ……はぁ……」


 荒い呼吸を繰り返し、新無赫は辛うじてベッドの上に這い上がった。清心丹のおかげで即座の気脈破裂は免れたが、今の彼の内力はほぼ空であり、指一本動かすのすら億劫なほどの虚脱感が全身を支配していた。全身の筋肉が小刻みに痙攣し、冷や汗がシーツを濡らしていく。


 その時であった。


(――気配が動いた)


 新無赫の『万象眼』が、仮面のスリットの奥で微かに光を帯びた。


 居室の外、静まり返った廊下から、音もなく近づく足音が聞こえた。いや、音ではない。彼の卓越した知覚が、空気のわずかな揺らぎを捉えたのだ。衣服が擦れる音すらしないその歩法は、天剣宗の暗殺術に長けた者の特徴であった。


 新無赫はベッドの上に横たわったまま、呼吸を極限まで潜め、意識を研ぎ澄ませた。


 障子戸の向こう側に、細い人影が佇んでいる。お蓮だ。彼女は柳夫人の忠実な目であり、新無赫が「偽物」ではないかと最も疑っている危険な監視者だった。衣服に残る「古い紙と煤の臭い」から、彼の深夜の外出を確信しているに違いない女が、今、牙を剥こうとしていた。


 お蓮は戸をわずかに開け、室内の様子を窺うと、猫のように音もなく室内へ侵入してきた。その手には、白麗城の通常の香木とは異なる、小さな紙包みが握られている。


 新無赫は目を閉じ、死んだように横たわりながらも、視神経に微弱な真気を集中させて『万象眼』を起動した。スリットの隙間から見える世界が、不気味な青白い光に包まれる。お蓮の全身の経絡を流れる真気の流れが、光る糸のように視覚化された。彼女の動きには、一切の躊躇がない。


 お蓮はベッドではなく、部屋の隅に置かれた真鍮製の香炉へと向かった。彼女は袖口から、極めて微細な、無色無臭の粉末を取り出した。


(あれは……『軟香散(ナンコウサン)』か)


 新無赫の脳裏に、かつて地下牢で耳にした邪派の毒薬の名が浮かんだ。吸入した者の経絡を一時的に麻痺させ、体内の真気循環を完全に遮断して武功を使用不能にする、暗殺用の超一級禁薬。解毒薬を持たずに吸入すれば、真気が経絡内に逆流し、最悪の場合は廃人となる恐るべき罠だ。


 お蓮は香炉の蓋を開け、くすぶる白檀の香炭の上にその粉末を静かに振りかけた。熱せられた毒薬は煙を立てない。常人であれば、何が起きたのかすら気づかずに毒を吸い込むだろう。しかし、新無赫の『万象眼』は、香炉から立ち上る不気味な紫色の歪んだ真気の気流が、静かに、しかし確実に部屋全体へと拡散していく様を完璧に捉えていた。


(柳夫人の命令だな。大演武場での私の剣技を見て、確信を得るために私の内力を完全に封じ、正体を暴くつもりか)


 新無赫の背筋に、冷たい戦慄が走った。もし内力を完全に封じられれば、彼の命は終わる。首元の起爆針が作動した際、それを一時的に回避するための唯一の生存手段である『逆流真気』すら使えなくなるのだ。それは、完全な「死」を意味していた。


(内力で毒煙を吹き飛ばすか? いや、だめだ。今のボロボロの経絡で強引に風を起こせば、窓が割れ、外の衛兵に異変が知れ渡る。お蓮にも私が毒に気づいたことが露呈する。この狭い密室の中で、奴に気づかれることなく毒の吸入を完全に回避し、限界まで引き寄せるしかない)


 新無赫は冷徹に計算した。彼は『無名呼吸法』の極意を応用し、自身の心臓の鼓動を極限まで遅らせ、一時的に呼吸を完全に停止させる肉体操作を開始した。鼓動が不自然なほどに間隔を広げ、やがて彼の胸の上下運動は完全に消失した。体温が急速に低下し、世界から彼の気配が消え去る。


 お蓮が、ゆっくりとベッドへと近づいてくる。紫色の有毒な気流が新無赫の鼻腔のすぐ傍まで迫っていたが、呼吸を完全に停止している彼の体内には、一粒の毒素も侵入することはなかった。


 お蓮の冷たい、暗殺者の目が、仮面を被った「若家督」の顔を見下ろしている。彼女は袖の中に隠した即死性の毒短刀に手をかけ、ベッドの上の男が本当に無力化されたかを確かめるため、ゆっくりと細い手を伸ばしてきた。その指先が、黒鉄の仮面に触れようとしたその瞬間、新無赫の左手の指先が、暗闇の中で蛇のように鋭く蠢いた。

HẾT CHƯƠNG

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