Nhạc nềnWuxia

消えた孤児たちと怪盗の指先

Audio truyện
Chưa có audio. Bấm để tự tạo audio cho tập này.

「君、どこかで嗅いだことのある魔力の匂いがするな」――。


 司法省の冷え切った廊下で、特別捜査官クライン・ベルガーが耳元で囁いたあの言葉が、今も榊鏡夜の鼓膜の奥で不気味な残響を立てていた。クラインの直感は、鋭利な剃刀のように鏡夜の正体に迫りつつある。一歩間違えれば、奈落の底へ転落する綱渡りの日々。だが、鏡夜には立ち止まる時間など残されていなかった。


 帝都ルミナスの地下に広がる陰鬱な「地下スラム・外周区」。魔導廃棄物の青白い霧が低く立ち込める路地裏を、鏡夜は足早に通り抜け、自身の隠れ家である「榊時計店」へと戻った。作業机に置かれた真鍮製の懐中時計――「悪魔の負債計数器」の針は、逆回転を続けながら無慈悲に残り時間を刻んでいる。悪魔レテへの次の納税期限まで、もう猶予はない。左腕の皮膚は、すでに手首の上部まで冷たい青い魔導ガラスのように結晶化しており、触れても何も感じない死の領域と化していた。


 その時、時計店の裏口が微かに叩かれた。独特の不規則なリズム。鏡夜が警戒を解いて扉を開けると、そこには肩で息をする十二歳の少年、シンの姿があった。茶髪を乱暴に濡らした少年は、怯えと激しい怒りが混ざり合った瞳で鏡夜を見上げた。


「先生、大変だ……! ガストンの奴ら、レバールがやられたことに気づいたみたいだ。証拠を消すために、さらった孤児たちを全員処分する気だ!」


 鏡夜の紫色の瞳が、眼鏡の奥で冷たく細められた。


「……場所はどこだ」


「スラムの最外周区にある、ガストンの隠し倉庫だ。あそこには、まだ僕の友達が閉じ込められている。ガストンの奴、子供たちの頭から『誘拐の記憶』を強制的に引き抜いて、結晶化した後に、抜け殻になった身体を廃棄霧の谷に投げ捨てるつもりなんだ! そんなことをされたら、みんな、自分が誰かも分からなくなって死んじゃう!」


 シンの小さな拳が、悔しさに震えていた。記憶を抜かれ、感情を失った「生ける人形」となる恐怖。それは、時計店の地下で眠り続ける妹・結衣の姿そのものだった。鏡夜の胸の奥で、冷徹な仮面の下に隠された静かな義憤が、青い炎となって揺らめいた。


「……分かった。案内しろ。だが、ここから先は私の指示に絶対に従え」


 鏡夜は「感情の凍結」を脳内で緩やかに稼働させ、雑念を排した。今、スラムの外周区にはクラインが放った特別捜査本部(CIB)の巡回兵が目を光らせている。クラインが持つ「追跡魔針」は、微小な魔力の放射すら感知してその座標を指し示す。もし現場で少しでも攻撃魔法や徴収魔術を使えば、瞬時にクラインの包囲網が敷かれ、すべてが破滅するだろう。


(魔法による突破は不可能。ならば、物理的な手段で侵入するしかない)


 鏡夜は作業机の隠し引き出しから、一本の細長い真鍮の筒を取り出した。中に入っているのは、かつて帝都を騒がせ、記憶を奪われて処刑された伝説の怪盗「銀の狐」の記憶結晶。そして、その結晶に付随して回収された、特殊な合金製の鍵開けツール「銀の狐のピッキングツール」だった。鏡夜は銀色の結晶を手に取り、自身の脳内にある第二スロットへと押し込んだ。


「記憶装填(メモリー・ロード)――『銀の狐』」


 瞬間、脳髄を冷たい電流が駆け抜けた。視界が一瞬だけ白く染まり、耳元で軽妙な男の笑い声が聞こえたような錯覚に陥る。ロードされた怪盗の記憶が、鏡夜の脳細胞を侵食していく。


(おや、ずいぶんと堅苦しい脳みそだな、お仲間さん? もっと肩の力を抜きなよ。世界は僕らの遊び場なんだからさ)


 鏡夜の指先が、奇妙なほどに軽やかになり、感覚が過敏なまでに研ぎ澄まされていく。スリルに対する奇妙な高揚感が胸の内に湧き上がり、無意識に唇の端が吊り上がりそうになる。鏡夜は即座に「感情の凍結」の出力を上げ、その侵食してくる怪盗の「愉悦」を冷徹に押し潰した。


「黙れ。お前の技術だけを寄越せばいい」


 鏡夜は自身の境界線を死守し、怪盗の「鍵開けと気配遮断」の経験則だけを自らの肉体に定着させた。手元にある真鍮のツールが、まるで自身の身体の一部であるかのように馴染んでいく。


 深夜のスラム外周区。廃棄霧が視界を遮る中、鏡夜とシンは音もなく影を縫うようにして進んだ。「銀の狐の歩法」を部分的にロードしているため、鏡夜の足音は湿った石床に吸い込まれ、完全に消失していた。路地の角を曲がるたび、司法省の巡回兵がランタンの光を走らせているが、鏡夜はその光の動きを完璧に予測し、影の濃い部分だけを選んで通り抜けた。


 やがて、二人は廃棄集積場の奥に佇む、錆びついた鉄板で覆われた巨大な倉庫の前に到達した。周囲にはガストンの手下である屍兵の気配はない。しかし、正面の分厚い鉄扉には、真鍮と青い魔導石が組み合わされた、極めて厳重な「物理・魔導の二重錠」が施されていた。


「先生、あれだよ……。あの鍵は、ガストンの魔力が込められていて、無理に壊そうとすると警報が鳴り響いて、中にいる子供たちの頭が吹き飛ぶ仕掛けになっているんだ」


 シンが耳元で囁く。鏡夜は頷き、鉄扉の前に膝をついた。眼鏡のブリッジを押し上げ、瞳を紫に輝かせる。「真眼(しんがん)」の起動。紫色の視界の中で、錠前の内部構造が透けて見えた。物理的な歯車の噛み合わせの奥に、不気味な青い魔力のラインが血管のように張り巡らされている。それは、侵入者の魔力的な接触を感知して作動する、最悪の防犯結界だった。


(魔術で結界を解除すれば、クラインの『追跡魔針』に感知される。だが、物理的なピッキングで噛み合わせを外しつつ、魔導回路の『隙間』をピンポイントで突けば、魔力を一切放出せずに解錠できる)


 鏡夜は「銀の狐のピッキングツール」を keyhole に差し込んだ。極細の銀の針が、鍵穴の奥でカチ、カチと繊細な音を立てる。怪盗の記憶が、鏡夜の指先に極限の精密さを与えていた。結晶化して感覚のない左腕を右腕で支え、右手一本で歯車のピンを一つずつ押し上げていく。


 最後のピンが持ち上がろうとしたその時、真眼の視界の中で、青い魔導石が不穏な赤色に変化し始めた。物理的なピンの動きを、魔導回路が「異常」として検知し、警報を作動させようとしているのだ。作動まで、あと一秒もない。


(させない)


 鏡夜は脳内の第一スロットにセットされている「瞬間的記憶消去(ショート・フォゲット)」を、極小の魔力規模で起動した。狙うは目の前の「魔導石のログ回路」。


 ――消えろ。


 魔導石が「侵入を検知した」という直前0.5秒間の事実の記憶が、鏡夜の極小の魔力針によって強制的に消去された。魔導石の赤色が、一瞬だけ元の青色へと戻る。そのわずかコンマ数秒の『空白の時間』の隙に、鏡夜はピッキングツールを鋭く回転させ、物理的な歯車を完全に噛み合わせた。


 カチャリ、と重厚な金属音が響き、魔導結界が光を失って沈黙した。魔力を外部に一切漏らすことなく、完璧な解錠が成し遂げられた瞬間だった。脳を襲う軽い目眩を、鏡夜は鋭い呼吸でねじ伏せた。


「開いたよ……本当に魔法を使わずに開けちゃった……」


 シンが感嘆の声を漏らす。だが、鏡夜の表情は凍りついたままだった。彼は音もなく扉を数センチだけ押し開けた。


 倉庫の内部には、不気味に青く光る高濃度の「魔導廃棄霧」が、まるで生き物のように渦巻いていた。冷たい湿気と死臭が混ざり合った空気が、鏡夜の頬を撫でる。そして、その暗闇の奥から、かすかな、しかし絶望に満ちた子供たちのすすり泣きが聞こえてきた。


 だが、それと同時に、鏡夜の「真眼」は、廃棄霧のさらに奥で蠢く、巨大で凶暴な魔力の波形を捉えていた。倉庫の闇の底で、重く、獣のような呼吸音が静かに響き始める。ガストンの用心棒、「狂犬のジャック」が、獲物の侵入を待つかのように闇の中で赤い瞳を光らせていた。

HẾT CHƯƠNG

Chưa có bình luận nào. Hãy là người đầu tiên!