Nhạc nềnRetroRoman_March

濁る水源

Audio truyện
Chưa có audio. Bấm để tự tạo audio cho tập này.

廃寺の竹林に吹き荒れる暴風雨の中、漣慎之介の放った「無音の刺」は、一寸の狂いもなく独眼の鬼蔵の右腕を貫いていた。肉を裂く音さえ立てずに滑り込んだ「風切」の折れた刃先は、鬼蔵の右肩に位置する気の要所――「肩髃」の経絡を完璧に破壊した。


「が、あ、あぁ……っ!」


 鬼蔵の口から、獣のような絶叫が漏れる。奴の手から名刀「鬼灯」が滑り落ち、泥濘の中に深く突き刺さった。右腕の自由を完全に失い、膝を突いた鬼蔵は、独眼を血走らせて慎之介と、その後方に立つ盲目の隠者――秋月総十郎を睨みつけた。


「馬鹿な……この嵐の雑音の中で、なぜ俺の呼吸の継ぎ目を……」


「お前は右肩の古傷を庇うため、太刀を引く瞬間に必ずわずかな呼吸の滞りを生じさせていた。その音は、嵐の羽ばたきよりも重く、私の耳には響いていたのだ」


 総十郎は目隠しの奥から静かに語りかけた。その声は平穏であったが、彼のこめかみには青筋が浮かび、目隠しの下からは一筋の鮮血が静かに流れ落ちていた。神速の指揮技術「声の糸」を極限まで酷使した代償が、彼の病んだ肺と脳を容赦なく蝕んでいるのだ。総十郎は激しく咳き込み、懐の白い布で口元を押さえた。布は瞬く間に赤黒く染まっていく。


「兄上!」


 慎之介が駆け寄ろうとしたが、総十郎は細い手手を振ってそれを制した。


「私に構うな。それよりも、その男から錆刃衆の次の動きを聞き出すのだ」


 慎之介は鬼蔵の胸元に折れた「風切」を突きつけ、冷徹な眼光で見下ろした。死線を越えた若き剣士の威圧感に、鬼蔵は不気味な笑みを漏らしながら、血混じりの唾を吐き捨てた。


「ひゃはは……勝ったと思うなよ、漣のガキ。頭領の源十郎様は、すでに次の手を打っている。……お前たちがどれだけ剣を磨こうと、宿場町ごと干からびれば終わりだ。毒使いの伝八が……今頃、共同井戸に『黒蠍の毒』を仕込んでいる頃よ……!」


「何だと!?」


 慎之介の顔に驚愕と怒りが走る。共同井戸は、枯葉宿の住民全員が命を繋ぐ唯一の水源だ。そこに猛毒が流されれば、平民たちは戦う術もなく全滅する。


「急ぐぞ、慎之介。奴を気絶させ、井戸へ向かうのだ」


 総十郎の指示に従い、慎之介は鬼蔵の首筋を叩いて気絶させると、総十郎を背負って嵐の山道を一気に駆け下りた。


 深夜、枯葉宿へと戻った一同は、茶屋の奥で激しく咳き込む総十郎を囲んでいた。太一が心配そうに冷たい水を持ってくる。その水を一口含んだ総十郎は、吐き出すように眉をひそめた。


「太一、この水はどこから汲んできた?」


「えっ? 共同井戸から、夕方に汲んでおいたものだけど……」


「水に……わずかな硫黄の酸っぱい臭いが混じっている。これは『黒蠍の毒』の微香だ。まだ致死量には達していないが、伝八はすでに井戸の底で、毒の希釈具合をテストしている」


 総十郎の「五感連動の風読み」と超人的な嗅覚が、目に見えない死の兆候を捉えていた。およねが顔を青ざめさせて部屋に入ってくる。


「総十郎さん、大変だよ! 井戸の周りに、怪しい足跡があったって、猟師の熊吉が言っている。宿場の人たちがパニックになりかけているよ!」


「およねさん、落ち着いてください。住民たちには、井戸の清掃を行うため一時的に使用を禁止すると伝えてください。パニックを起こせば、伝八にこちらの警戒が知られます。慎之介、自警団の勘太を集めろ。深夜の井戸で、奴を迎え撃つ」


 総十郎は静かに立ち上がり、自作の「竹筒の聴診器」を手に取った。その目は見えなくとも、彼の脳内には、深夜の共同井戸を中心とした完璧な戦術盤面が描き出されていた。


 夜更け、枯葉宿の中央広場は静まり返っていた。嵐は去り、湿った重い空気が地表に立ち込めている。共同井戸の周囲の地面は、先ほどの雨によって深い泥濘と化していた。


 総十郎は井戸から数歩離れた物陰に座し、竹筒の聴診器の先端を泥の中に深く突き刺していた。もう一方の端を耳に当て、大地の微細な振動を拾い上げる。井戸の周囲をわざと泥濘にしたのは、総十郎の緻密な計算によるものだった。どれほど足音を消す達人であっても、水分を含んだ泥を踏みしめれば、「ジュクッ」という特有の鈍い振動が発生する。その振動の「深さ」と「間隔」から、侵入者の体重、歩幅、そして位置をミリ単位で特定できるのだ。


 井戸の反対側の闇には、慎之介が「風切」を握りしめて息を殺している。さらに、太一は総十郎から託された「真鍮の鈴」を握り、井戸の陰の物陰に潜んでいた。自警団の勘太たちも、周囲の路地に竹槍を構えて息を潜めている。


 しん、と静まり返った闇の中、竹筒の聴診器を通じて、総十郎の鼓膜に微かな振動が伝わってきた。


 ――ジュクッ……ジュクッ……。


 足音の間隔は狭く、極めて慎重だ。だが、右足が泥に沈む深さが、左足よりもわずかに深い。懐に重い薬袋を下げている証拠だった。間違いない。毒蠍の伝八だ。


 伝八は周囲を警戒しながら、共同井戸の縁へと近づいていく。その手には、一滴で牛をも即死させる猛毒「黒蠍の毒」が詰まった革袋が握られていた。奴が袋の紐を解き、井戸の中へ毒を注ぎ込もうとしたその瞬間、総十郎の指先が微かに動いた。


 ――チリン。


 太一が指示通り、井戸の陰から「真鍮の鈴」を鋭く鳴らした。静寂の闇に響いた金属音に、伝八はビクリと肩を震わせ、鈴の鳴った方向へと反射的に顔を向けた。完全な死角の創出だった。


「そこだ、慎之介! 奴の右側面から突け!」


 総十郎の「声の糸」が慎之介の脳内に響く。闇を切り裂き、慎之介の「風切」が音もなく滑り出した。風切り音を完全に排した「無音の刺」が、伝八の喉元へと肉薄する。


 しかし、伝八は三流の無法者とは異なり、暗殺専門の毒使いとしての鋭い直感を持っていた。首筋に迫る冷気を感じた瞬間、奴はなりふり構わず泥の中に体を投げ出し、慎之介の突きを紙一重で回避した。転がりながら、伝八は袖口から数本の「毒針」を放った。


 ――キィン、キィン!


 闇の中で火花が散る。慎之介は総十郎の「化勁」の教えを応用し、風切の刀身を斜めに滑らせることで、迫り来る毒針の軌道を音もなく受け流した。毒針は井戸の木枠に深く突き刺さり、ジュッと不気味な紫色の煙を上げる。


「何者だ……! なぜ俺の動きが分かった!」


 泥にまみれた伝八が、狂乱した声を上げる。周囲の路地から、勘太たち自警団が竹槍を突き出して一斉に姿を現した。


「伝八! 貴様の悪行もここまでだ!」


 勘太が槍を構えて伝八を捕らえようと踏み込んだ。だが、伝八は卑劣な笑みを浮かべ、懐から別の薬袋を取り出し、周囲にぶち撒けた。緑色の不気味な毒粉が、風に乗って周囲に拡散する。


「ぐあぁっ! 目が、目が見えん!」


 毒粉を顔面に浴びた勘太が、悲鳴を上げてその場に転がった。自警団の陣形が一瞬にして混乱に陥る。その隙を見逃さず、伝八は懐の「黒蠍の毒」の袋を高く掲げ、井戸の真上へと手を伸ばした。


「おのれ……! こうなれば、この井戸ごと全員あの世へ連れて行ってやる!」


 伝八は包囲されたことに気づき、狂ったような笑みを浮かべながら、懐の毒薬の袋を井戸の底へと投げ捨てようと手を伸ばした――。

HẾT CHƯƠNG

Chưa có bình luận nào. Hãy là người đầu tiên!