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針先の欺瞞、暴かれる偽りの心音

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「違法私的刺繍の容疑者、ソウタだな」


冷酷な声が、蹴り破られた扉の隙間から吹き込む凍てつく風と共に、星霜庵の狭い工房に響き渡った。室内の温度が一気に氷点下へと急降下していく。目隠しを纏ったソウタの「点群世界」において、侵入者たちの姿は青白く、そして鋭い輪郭を持って描き出されていた。


中央に立つのは、徴税官ハリス。彼の右手には、あの忌まわしき「星霜の魔導ランタン」が握られており、そこから放たれる青いスキャン光が、ソウタの無防備な作業台や、壁に掛けられた色とりどりの糸の束を舐めるように照らし出している。その背後には、冷たい氷霜の鎧を身にまとった領主軍の衛兵たちが抜刀したまま立ち並び、逃げ道を完全に塞いでいた。


「家宅捜索令状だ。神殿の許可なき私的刺繍、および違法魔力糸の所持。その疑いにより、この店を徹底的に検分させてもらう」


ハリスの心音は、冷徹で、寸分の揺らぎもない平坦なリズムを刻んでいた。彼にとって、平民の工房を破壊し、その人生を奪うことなど、毎朝の呼吸と同じ程度に無価値な事務作業に過ぎないのだ。ソウタは麻布の目隠しの奥で、静かに呼吸を整えた。彼の右手の親指から人差し指の先端にかけては、先の戦いの代償として完全に凍りつき、感覚を失っている。だが、残された指先は、不気味なほど冷徹に研ぎ澄まされていた。


「おや、大人しくお縄を頂戴するつもりか? 盲目の大逆犯め」


ハリスの影から、もう一つの心音が近づいてくる。ねっとりとした、強欲と嫉妬に塗れた心音。仕立て屋ギルドのボス、バルトロだ。彼の心臓は、待ち望んだ復讐の瞬間を前に、浅く、そして品性のない高鳴りを刻んでいた。その手には金の指輪がいくつも嵌められ、スラムには不釣り合いな豪華な長袍を誇らしげに揺らしている。


「バルトロギルド長……」


ソウタが静かにその名を呼ぶと、バルトロは勝ち誇ったように鼻で笑った。


「ソウタ、お前が安値で配っていたあの防寒着、あれがただの古着のツギハギではないことは分かっているのだ。神殿の許可なき魔力刺繍を施し、平民どもを唆してギルドの秩序を乱した罪、万死に値する。ハリス様、さあ、早くこの小汚い店を捜索してください。必ず、大逆の証拠が出てくるはずです」


ハリスはバルトロの言葉に短く頷くと、容赦のない顎で衛兵たちに指示を出した。


「捜せ。埃の一粒、床板の一枚まで剥ぎ取って構わん」


衛兵たちが一斉に工房内へ踏み込み、乱暴な捜索が始まった。古い木製の棚がなぎ倒され、中に入っていた型紙や、ソウタが指先で紡いだ通常の絹糸が床にぶちまけられる。バルトロが仕立て屋ギルドの権限を使って供給を制限した「辺境絹」の代わりに、ソウタが廃品回収広場から集めてきた古い魔法回路の金属線や、ハンスが命がけで持ち帰った野生の星霜草の繊維が、衛兵たちの泥だらけのブーツに踏みにじられていく。


傍らで縮こまっていたテオが、悔しさに唇を噛み締め、ハリスの前に立ちはだかろうとした。


「やめろ! 兄さんは何も悪いことなんてしてない! 壊すな!」


「下がれ、小僧」


衛兵の一人がテオの胸元を乱暴に突き飛ばし、彼は床板の上を転がった。ソウタは「点群世界」でその動きを正確に捉え、一歩踏み出してテオを自身の背後に庇った。彼の右手の凍結した指先が、微かに震える。怒りではない。感覚のない肉体が、周囲の冷気に拒絶反応を起こしているのだ。


「テオ、大人しくしているんだ」


ソウタの静かな、しかし有無を言わせぬ声に、テオは涙を浮かべながらも口を閉じた。


その時、作業台の引き出しを乱暴に引き抜いた衛兵が、鋭い声を上げた。


「ハリス様! 発見しました!」


衛兵の手には、不自然に輝く一本の糸束が握られていた。それは、通常の星霊糸とは異なる、神殿の最高級の魔導ドレスにしか使われないはずの「極光の魔力糸」だった。スラムの貧しい仕立て屋が所持していること自体が、完全な違法であり、国家に対する窃盗罪が成立する物証。


バルトロが、待ってましたと言わんばかりに声を張り上げた。


「おお! 見てください! やはり、この大逆犯は神殿から魔力糸を盗み出し、それをスラムのボロ着に縫い込んでいたのです! ハリス様、これで言い逃れはできません!」


ハリスがその糸束を手に取り、魔導ランタンの光を当てた。ランタンは激しい警告の赤色光を発し、室内の壁を血のように染め上げる。


「……決まりだな。平民ソウタ。違法私的刺繍、および神殿物資の不当所持。その罪により、直ちに両手を切断し、身柄を領主館の霜天牢へ移送する。また、奥の寝室にいる妹とやらも、魔力搾取の『生贄』として神殿へ連行する」


ハリスの宣告は冷酷極まりなく、衛兵たちがソウタを取り囲むように距離を詰めてきた。錆びた鉄の匂いと、氷霜の鎧が発する冷気が、ソウタの皮膚を刺す。


絶体絶命の窮地。しかし、目隠しの奥のソウタの瞳は、誰よりも冷徹に世界を観察していた。彼は「心音の糸聞き」を起動し、周囲の鼓動に耳を澄ませる。


トク、トク、トク――ハリスの鼓動は、義務を遂行するだけの冷徹な機械。だが、その隣に立つバルトロの鼓動は違った。


ドクン、ドクン、ドクン、ドクン!


バルトロの心臓は、異常なまでの歓喜と、そして「嘘」に伴う特有の引き攣れたテンポを刻んでいた。その心音の奥底から、ソウタの耳は、昨夜この工房の裏口から忍び込み、引き出しの奥にあの糸束を滑り込ませたバルトロの「足音の残響」と、彼がハリスに多額の星霊銀貨を渡してこの捜索を仕組んだという「確信のテンポ」を完全に読み取っていた。


(やはり、お前が仕組んだ罠か、バルトロ)


ソウタの唇が、微かに、本当に微かに弧を描いた。すべては予測の範囲内だった。バルトロが自身を排除するために、最も公的で、最も残酷な手段(ハリス)を使うことは、エリナの情報から既に織り込み済みだったのだ。


ソウタは、捜索が始まる直前、バルトロが「星霜庵」の敷居をまたぎ、自身を嘲笑うために近づいてきた一瞬の隙を逃さなかった。目が見えない哀れな平民を演じながら、ソウタはバルトロの身体を避けるようにして、すれ違いざまに彼のポケットへと、指先から放った目に見えない「星霊糸」を滑り込ませていた。その糸の先には、ソウタが野生の星霜草の繊維で織り上げた、一枚の特製ハンカチが結ばれていた。


そのハンカチには、「針紋の領域」の中級技術――着用者の精神(心音)が嘘を吐いた際、体内の魔力波形を強制的に乱し、自らの「真実の意図」を大声で喋らせてしまう呪いの幾何学紋様が、寸分の狂いなく縫い込まれていたのだ。


「ソウタ、何か言い訳はあるか?」


ハリスが冷たく問いかける。その手の中で、魔導ランタンの警告光がさらに赤さを増していく。


ソウタは一歩も退かず、静かにバルトロの方へと顔を向けた。


「ハリス様。その糸は、私のものではありません」


「往て生際が悪いぞ、ソウタ!」バルトロが、勝ち誇った笑みを浮かべながら、ソウタの目隠しを指差して罵った。「衛兵が引き出しから直接見つけ出したのだ! この盲目のコソ泥め、早くその不浄な両手を切り落とされ、妹もろとも地獄へ落ちるがいい!」


バルトロがソウタを罪人として指し示し、自身の完璧な勝利を確信して、醜悪な笑みを浮かべた。ハリスが冷酷に衛兵へ合図を送ろうとした、その刹那。


ソウタは、感覚を失った右手の代わりに、左手の指先を静かに、そして力強く弾いた。


(因果の結び目――起動)


ソウタの指先から放たれた目に見えない魔力の波動が、空気の幾何学的な流れを伝わり、バルトロのポケットの中のハンカチに刻まれた「針紋」へと一瞬で同調した。


カチリ、と脳内で完璧な結び目が完成する音が響く。


その瞬間、バルトロの胸元から、不気味で鋭い銀色の光が、まるで心臓から噴き出すかのように立ち上った。

HẾT CHƯƠNG

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