Nhạc nềnTaohua

骨肉を裂く鋼糸の縫合

Audio truyện
Chưa có audio. Bấm để tự tạo audio cho tập này.

冷たい。暗い。そして、肺腑を焼き尽くすような強烈な薬臭。


 黒崎蓮二が意識を取り戻した瞬間、最初に感じたのは己の「死」の残滓だった。喉の奥にこびりついた『偽死用の薬殻』の苦味が、彼が仮死状態から辛うじて生還したことを告げていた。肺が引きちぎれるような勢いで酸素を求め、蓮二は激しく咳き込んだ。口から吐き出されたのは、強酸性の泥が混ざった黒い血だった。


「目覚めたのね。あと半刻も遅ければ、あなたの脳は完全に腐り落ちていたわ」


 冷徹で、抑揚のない少女の声。蓮二が泥に汚れた薄暗い視界を巡らせると、そこは湿気と光る苔の青白い残光に満ちた地下洞窟――『独孤緑の秘密温室』だった。頭上には巨大な食人植物の蔓が蠢き、空気中には触れるだけで皮膚を爛らせる有毒な胞子が静かに漂っている。だが、その胞子結界の内側だけは、奇跡的に清浄な空気が保たれていた。


 蓮二の傍らに立っていたのは、薬草の香りと血の匂いを身に纏った少女、独孤緑だった。彼女は手にした『百毒蒸留釜』の煤けた注ぎ口から、蓮二の顔に向けて冷たい薬液を容赦なく浴びせかけた。


「緑……俺は、どれほど眠っていた……?」


「仮死薬を飲んで泥の底に沈んでから、およそ二刻。鍾乳洞の地下水流に引っかかっているあなたを、私が網で引き揚げたの。息は止まっていたけれど、心臓の『血蠱』だけは、まだあなたの肉を喰らおうと微かに蠢いていたわ」


 緑は冷たい瞳で蓮二を見下ろした。そこには同情も憐れみもない。ただ、貴重な実験体が生き延びたことに対する、観察者としての乾いた満足感があるだけだった。


 蓮二は身を起こそうとした。だが、その瞬間に右半身を襲った強烈な違和感に、全身の血が凍りついた。右腕が、動かない。


 視線を落とすと、彼の右腕は肩から指先まで、まるで立ち枯れた黒い巨木のように変色していた。烈風の放った真空の風刃によって、主経絡を完全に両断された右腕。それは生命の温もりを失い、どす黒い鬱血と壊死の兆候を見せている。皮膚を触っても感覚はなく、ただ氷のような冷たさと、経絡の奥底から立ち上る腐敗の臭気だけが鼻腔を突いた。


「右腕経絡断裂限界……」


 蓮二は掠れた声で呟いた。武芸者にとって、経絡の完全な断裂は「死」と同義である。真気を巡らせることも、太刀を握ることもできない右腕など、ただの重荷に過ぎない。


「無駄よ」と緑が淡々と告げた。「五毒教の右護法・鬼骸の屍術でも使わない限り、その腕が再び動くことはないわ。経絡が物理的に千切れ、肉が死に始めている。切り落とした方が、血蠱の侵食を遅らせるためにも懸命ね」


「……黙れ」


 蓮二の奥歯が、軋むような音を立てた。切り落とす? そんなことをすれば、御堂邪仙への復讐はどうなる。隻腕の剣士が、あの絶対的な怪物の喉元に刃を届かせられるはずがない。泥水を啜り、一族の血を裏切り、心臓に毒虫を宿してまで生き延びたのは、生き長らえるためではない。奴の心臓を、この手で引きずり出すためだ。


「右腕を捨てるくらいなら、ここで死んだ方がマシだ。緑、鬼骸の研究所から強奪した『あの糸』はどこにある」


 緑の細い眉が、不快そうに歪んだ。


「まさか……あれを使うつもり? 狂っているわ。あれは人間の肉体に使うものではない。屍人を繋ぎ止めるための、呪われた金属糸よ」


「持ってこい。やらなければ、今すぐお前の喉を左手で握り潰す」


 蓮二の左目に、底知れぬ漆黒の殺意が宿った。それは脅しではなかった。緑はため息を吐き、温室の奥にある薬品棚から、一本の細い木箱を取り出した。蓋を開けると、そこには銀色の鈍い光を放つ極細の糸――『経絡縫合の鋼糸』が、血塗られた銀針と共に収められていた。


 かつて、人間の骨格を自在に外す技術を持つ奇人『骨削(ほねしり)』から叩き込まれた、人体の解剖学的知識が蓮二の脳裏に蘇る。骨削は言っていた。「経絡とは気の流れる川だ。川が途切れたなら、泥を盛ってでも、鉄の管を通してでも繋ぎ止めろ」と。


「メスを貸せ」


 蓮二は左手で鋭いメスを掴み、自身の右腕を見つめた。感覚のない黒い皮膚。彼は躊躇なく、肘から手首にかけて、肉を深く切り裂いた。


 感覚がないはずの右腕の奥から、鈍い、しかし精神を狂わせるような不快な振動が脳髄へと伝わった。黒ずんだ毒血が溢れ出し、温室の苔の上に滴り落ちる。蓮二は左手の指先を器用に使い、裂けた肉を押し広げ、その奥に眠る白く濁った経絡の断端を露出させた。主経絡は、烈風の風刃によって、まるで引きちぎられた麻縄のように無惨に解れていた。


「防腐の薬液を注げ。一滴も残さずにな」


 蓮二は青白い顔で命じた。緑は百毒蒸留釜から、触れるだけで鉄をも融かす特殊な防腐薬液をすくい上げ、露出した蓮二の生肉へと直接注ぎ込んだ。


「あ、が……ッ!!」


 絶叫が、地下温室の石壁に跳ね返った。感覚が死んでいたはずの神経が、強酸性の薬液によって強制的に焼き起こされたのだ。全身の筋肉が硬直。左手が激しく震え、メスを落としそうになる。だが、蓮二は奥歯が砕けるほど噛み締め、意識を強引に繋ぎ止めた。肉がジュウジュウと音を立てて白く焼けただれ、凄まじい焦げ臭さが立ち込める。


「今よ。早くしなければ、ショックであなたの心臓が止まるわ」


 緑の警告を背に、蓮二は左手で銀針を掴んだ。針の穴に通されているのは、極細ながら鉄をも切る強度を持つ『経絡縫合の鋼糸』。魔力を通しやすいが、動かすたびに肉と神経を物理的に削る禁忌の糸だ。


 蓮二は、震える左手で銀針を操り、切断された主経絡の端へと針を突き刺した。


 ぶつり、と神経が引きちぎれるような感覚が脳内を爆発させる。彼は一本、また一本と、解れた経絡の繊維を鋼糸で物理的に縫い合わせ、緊縛していった。針が肉を貫き、金属の糸が断裂した神経を力任せに締め上げる。それは、地獄の拷問を自らに科すような、狂気の自己外科手術だった。


 その時、あまりの激痛に、蓮二の心臓に宿る『血蠱』が危機を感知して暴走を始めた。胸元の紫色の血管が異常な速さで脈打ち、体温が急激に上昇する。血蠱が放つ熱毒が、縫合中の右腕に流れ込めば、繋ぎかけた経絡は内側から爆破される。


「血蠱が暴走する……! 糸が千切れるわ!」


 緑が叫んだ。実際、血蠱の急激な脈動の圧力に耐えかね、一度縫い合わせた鋼糸が肉を切り裂いて千切れかけ、激しい内出血が傷口から噴き出した。


「まだだ……まだ終わらせん……!」


 蓮二は左手で、自身の懐から従兄・右京の遺骨で作られた『毒骨の小刀』を毟り取るようにして引き抜いた。そして、自身の胸元、心臓のすぐ横にある経穴「狂血穴」に向けて、小刀を限界まで深く突き刺した。


 自己強化禁術――経穴自突「狂血」。


「う、おおおおお!」


 蓮二の瞳が血のように赤く染まり、全身の血管が浮き出た。血蠱の毒血が全身の筋肉を強制的に駆け巡り、痛覚を麻痺させ、身体能力を爆発的に高める。脳内を狂気が支配し、一族の死に顔が幻覚となって目の前を通り過ぎていく。だが、その狂気こそが、彼に針を動かす力を与えた。


 感覚が完全に麻痺した一瞬の隙を突き、蓮二は千切れかけた鋼糸を強引に引き締め、経絡の端と端を寸分の狂いもなく二重に縫い合わせた。最後の一針を貫き、鋼糸を結び終えた瞬間、右腕の奥深くで、せき止められていた黒い毒血がドクンと音を立てて流れ始めた。


 真気が、鋼糸を通じて右腕の末端へと伝わっていく。


 蓮二は床に崩れ落ち、激しく吐血した。胸元からは小刀が突き刺さったまま、赤黒い毒気が霧となって立ち上っている。だが、泥だらけの左手で、彼は自身の右手の指先を動かした。かすかに、しかし確実に、黒ずんだ指先が蓮二の意志に従って動いた。


「……繋がったわね」


 緑は、蓮二の狂気に満ちた執念の凄まじさに、生まれて初めて底知れぬ恐怖を感じていた。この男は、復讐のためなら己の肉体をただの機械のように改造し、骨肉を裂く痛みすらも燃料に変えてしまう。人間ではない。これこそが、本物の怪物だ。


 蓮二は荒い息を吐きながら、右腕の傷口を布で固く縛り上げた。動かすたびに、皮膚の内側で鋼糸が肉を削る永続的な針の激痛が走る。だが、これで再び、太刀を握ることができる。


 その時。青白い苔の光に満ちた秘密温室の入り口を覆う、有毒胞子の結界が、不自然に激しく揺らいだ。


 温室の湿った大気の中に、かすかに混ざる異質な匂い。それは、南蛮の底なし沼の泥臭さではない。鉄錆と、大蛇が這いずり回るような、生臭い血の匂い――。


 蓮二の胸元の血管が、危険を告げるようにドクンと激しく脈打った。


「誰か、来るわ」と緑が短く、鋭く告げた。彼女の手が、百毒蒸留釜のバルブへと伸びる。


 温室の入り口、暗黒の鍾乳洞の奥から、シュルシュルと、金属の鎖が岩肌を擦る不気味な音が響き渡り、蓮二の「血の匂い」を感知した新たな追跡者たちの影が、静かに滑り込んできた。

HẾT CHƯƠNG

Chưa có bình luận nào. Hãy là người đầu tiên!