Nhạc nềnShizima4

氷結の嘆き谷の火花

Audio truyện
Chưa có audio. Bấm để tự tạo audio cho tập này.

「……急ごう。両軍の殺気が、この吹雪の向こうで激突しようとしている」


 氷結の嘆き谷の半ば、竜帝イグニスが放つ圧倒的な熱の障壁に守られながら、カイル・レオンハルトは一歩ずつ雪を踏みしめていた。彼の胸元には、イグニスから贈られた『竜帝の逆鱗印』のブローチが真紅の微光を放ち、周囲の凍てつく大気を強引に融解させている。懐に忍ばせた『共同共闘の密約書』の重みを感じながら、カイルは左目の『解析のモノクル』の倍率を調整した。


「おい、カイル。本当にこのまま突っ込む気か? 障壁の中にいても、あの大群の魔力がぶつかり合えば、ただの衝撃波でお前の身体は消し飛ぶぞ」


 レオンが『守護の魔剣』の柄に手をかけ、隻眼を細めて警告する。その横では、亜人連合の戦士長ガウルが、不快そうに鼻を鳴らしながらも、カイルの歩調に合わせて静かに追従していた。


「退くわけにはいかないんだ、レオン。僕たちがここで彼らを止めなければ、世界はあの密約書のシナリオ通りに、引き返せない全面戦争へと突入する。そうなれば、僕たちの命も……シルフも、セレスティアも、ヴェロニカも、そしてイグニスも、全員が連鎖的に死ぬことになる」


 カイルは静かに、しかし断固とした意志を口にした。彼の黒髪の三分の一は、過酷な感覚共有の代償として、すでに美しい白銀色へと変色している。だが、その瞳に宿る知的な輝きは、微塵も衰えていなかった。


「ふん、小賢しい羽虫が。我が命のハブであることを盾に、この私をパシリのように使いおって」


 カイルの隣を歩くイグニスが、赤髪を吹雪に揺らしながら、傲慢な金色の瞳で睨みつけてくる。不機嫌そうに真紅の尾を揺らしながらも、彼女はカイルが寒さに震えぬよう、その歩みに合わせて体温の出力を細かく調整していた。口では罵りながらも、ソウルリンクを通じてカイルの『死』を本能的に恐れている彼女の過保護な本能が、熱波となってカイルを包み込んでいる。


 やがて、渓谷の最深部――両側の絶壁がそびえ立つ、最も狭いボトルネックエリアへと到達した。そこでは、カイルの予測通り、二つの大軍が一触即発の睨み合いを続けていた。


 東側には、純白の甲冑と光り輝く法衣を纏った、神聖教会の異端審問官バルタザール・フォン・ドミニクス率いる『聖痕の影』の精鋭たち。彼らは整然とした陣形を組み、空中には巨大な『聖光の障壁』を展開している。バルタザールは冷酷な細い目を光らせ、手にした聖槌を静かに地面に立てていた。


 対する西側には、魔王軍急進派の突撃隊長バザン・アイアンホーン率いる魔獣部隊。巨大な鉄の角を持つミノタウルスたちが、漆黒の甲冑を軋ませ、鼻孔から白い蒸気を噴き出しながら咆哮を上げている。彼らの背後には、狂暴なフロストウルフや巨大な魔獣の群れが、いつでも飛びかかれる体勢で牙を剥いていた。


「穢れた魔族どもめ。神聖なる境界線を侵した罪、その命を以て償うが良い」


 バルタザールの冷徹な声が、吹雪を切り裂いて響く。


「ハッ、笑わせるな人間の羽虫が! この嘆き谷は我ら魔王軍の牙が支配する地だ。貴様らのその白い首、すべて我が大斧で叩き切ってくれる!」


 バザンが巨大な『突撃の鉄甲』をはめた腕を振り上げ、魔獣たちが一斉に地鳴りのような咆哮を上げた。両軍の殺気が物理的な圧力となり、谷の空気をビリビリと振動させる。


 カイルは絶壁の陰からその光景を見据え、モノクルのレンズを指先でなぞった。古代ルーンの構造を視覚化するその眼鏡の奥で、両軍の陣形と、地脈を流れるマナの奔流が立体的なグリッドとして浮かび上がる。


「……待ってくれ。何かがおかしい」


 カイルは息を呑んだ。モノクルが映し出したのは、両軍の足元――厚い氷床のさらに数メートル地下に、不気味に脈打つ漆黒のエネルギーの筋だった。それは、触れたマナを消滅させ、生命の精神を汚染する最悪の物質――『虚無の泥』の波形だった。


「これは……『虚無の使徒』の罠だ。両軍がここで衝突し、その魔力の衝撃で氷床が割れれば、地下の黒泥が一気に噴出する。そうなれば、この場にいる全員が汚染され、世界大戦どころか、大陸の境界線そのものが崩壊する……!」


「何だと!? あのハエ野郎どもの裏で、そんな小細工が動いてやがったのか」


 ガウルが牙を剥き出しにして唸る。


「ふん、回りくどい。そのような雑音、我が炎で両軍ごと灰にしてくれよう!」


 イグニスが傲慢に顎を上げ、その口元に天をも焦がす竜火の魔力を集束させ始めた。彼女の背後に、巨大な真紅の火竜の幻影が揺らめき立つ。このまま彼女がブレスを放てば、両軍は一瞬で消滅するが、それは同時に、竜族が人間に宣戦布告したと同義となり、世界大戦の引き金となってしまう。


「ダメだ、イグニス! 待ってくれ!」


 カイルは咄嗟に、自身の胸元に手を当て、ソウルリンクの接続点である彼女の血印に意識を向けた。そして、彼女の肩に直接触れ、その金色の瞳を真っ直ぐに見つめた。


「お願いだ、イグニス。僕を信じて、ブレスを放つのを『一秒』だけ遅らせてほしい。僕が彼らの術式のバグを突く。君の炎は、その後に僕を守るためだけに使ってくれ」


「なっ……!?」


 突然カイルに直接触れられ、その至近距離から見つめられたイグニスは、一瞬だけ頬を林檎のように真っ赤に染めた。彼女の絶対的な自尊心が、カイルの真剣な眼差しと、リンクを通じて流れ込んできた『絶対に君を死なせない』という強い意志に、本能的に気圧されたのだ。


「……くっ、小賢しい羽虫めが! 一秒だけだ、それ以上は待たぬ!」


 イグニスはぷいと顔を背けたが、口元の炎の集束を辛うじて維持し、攻撃のタイミングを遅らせた。


 その瞬間、東側の本陣にいたバルタザールが、モノクルを光らせて絶壁の陰に立つカイルの姿を視認した。その冷酷な細い瞳に、狂信的な光が宿る。


「――見つけたぞ。聖女様を呪い、その心を惑わす大罪人カイル・レオンハルト。貴様さえ消し去れば、すべての不浄は浄化される」


 バルタザールはバザンへの攻撃を完全に無視し、その聖槌をカイルに向けて突き出した。彼の周囲に展開されていた光の魔術が、一瞬にして一本の極太の鎖へと収束していく。教会の秘奥魔術――『断罪の光鎖』。闇を焼き尽くし、罪人の心臓を正確に貫く必殺の光が、イグニスの障壁をバイパスするように、無防備なカイルに向けて射出された。


「死ね、異端め」


 光の鎖が、猛烈な速度で大気を切り裂き、カイルの胸元へと迫る。


「カイル!」


 イグニスが慌ててカイルを庇おうと、自身の炎の壁を展開しようとした。しかし、嘆き谷を満たす古代氷結ルーンの極低温マナが、彼女の炎の構築速度をコンマ数秒だけ遅らせてしまう。炎の壁が完成する前に、光の鎖がその隙間をすり抜けていく。


 ――間に合わない。


 誰もがそう確信した瞬間、カイルは左目のモノクルを強く押し当て、脳内の演算速度を極限まで引き上げた。彼の瞳の奥で、古代アトラ式の思考ルーチンが爆発的に稼働する。


 ――『解析の魔眼』、起動。


 カイルの視界の中で、世界の流れが極限までスローモーションへと変化した。迫り来る『断罪の光鎖』の軌道が、半透明の赤い因果線として、1・5秒先を歩むようにカイルの脳内に直接投影される。さらに、新生モノクルのフレームが、鎖の接合部に流れるマナの不均等なノイズ――『バグ』をピンポイントで青く光らせた。


「レオン! 右前方、四十五度! 上から振り下ろされる鎖の『三番目のリンク』を、君の大剣で叩いてくれ!」


「おうよッ!」


 レオンはカイルの叫び声を聴いた瞬間、一切の躊躇なく地面を蹴った。カイルの精密な先読み指示通り、右前方へ飛び込みながら『守護の魔剣』を大振りに構える。そして正確に1・5秒後、カイルが指摘した『三番目のリンク』――魔力が最も滞り、構造的に最も脆弱になっていた『急所』へと、レオンの渾身の一撃が叩き込まれた。


 キィィィィン――!!!


 鼓膜を引き裂くような硬質な金属音が響き渡り、バルタザールが放った必殺の『断罪の光鎖』は、レオンの大剣が触れた瞬間、まるでガラス細工のように粉々に砕け散り、眩い光の粒子となって吹雪の中に霧散していった。


「なっ……馬鹿な!? 我が断罪の光鎖を、ただの物理攻撃で粉砕しただと!?」


 バルタザールが驚愕の声を上げ、その冷徹な仮面を大きく歪めた。彼にとって、教会の秘奥が一人の魔力を持たない人間に『急所解析』され、一撃で解体されたという事実は、到底信じがたい悪夢だった。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


 カイルは激しく息を荒らし、その場に崩れ落ちそうになった。極限の脳内演算の代償として、彼の右目の端から、一本の赤い血の涙が頬を伝って流れ落ちる。毛細血管が破裂したのだ。激しい目眩と、頭を万力で締め付けられるような頭痛がカイルを襲う。


 しかし、調停の決死の盾は成功した。だが、その代償はあまりにも大きかった。


 自身の目の前で、大切な『命のハブ』であるカイルが不意打ちを受け、血の涙を流して倒れかけたのを見た瞬間――竜帝イグニスの脳内で、何かが完全に弾け飛んだ。


「――貴様ら、よくも我が羽虫を傷つけてくれたな」


 イグニスの金色の瞳が、完全に冷酷な竜の縦スリットへと変貌した。彼女の身体から放たれる真紅の魔力が、これまでの比ではない圧倒的な熱量となって爆発し、氷結の嘆き谷全体の氷床が、地響きを立てて急速に溶け出し始めた。立ち上る猛烈な水蒸気が、戦場を白い地獄へと変えていく。


 怒り狂った竜帝の炎が、今、すべてを焼き尽くそうと臨界に達していた。

HẾT CHƯƠNG

Chưa có bình luận nào. Hãy là người đầu tiên!