Nhạc nềnTaishoRoman_Theme2

百毒の書庫

Audio truyện
Chưa có audio. Bấm để tự tạo audio cho tập này.

「……浪人の剣にしては、あまりにも容赦がない。まるで、影に潜む暗殺者のような気配でした」


 朝霧が白く立ち込める白雲山麓の路地裏で、柳雪楓の澄んだ瞳が、沈青言――今は放浪の剣士「無名」と名乗る男の顔を真っ直ぐに見つめていた。彼女の背に背負われた名剣「飛霜剣」から放たれる冷たい気流が、湿った空気をさらに引き締めている。


 沈青言はわざとらしく頭を掻き、不器用な笑みを浮かべてみせた。喉の奥に深く刺し込まれた「声帯調整用の骨針」が天突穴を刺激し、喋るたびに喉が引き裂かれるような激痛と、じわりとした鉄の味が口内に広がる。だが、ここで一瞬でも表情を乱せば、この鋭い女侠に正体を見破られる。


「はは、女侠、買い被りすぎですよ。俺のような根無しの浪人は、生き延びるためなら泥水でもすする。綺麗に戦っていたら、今頃どこかの溝で野垂れ死んでます。ただ必死だっただけですよ」


 彼はあえて重心を崩し、鉄剣を雑に腰の鞘へと収めた。影衣衛の百戸として叩き込まれた無駄のない動作を徹底的に泥臭い浪人の動きへと偽装する。右腕の経絡には、先ほどの戦闘で強引に「白雲一線天」を模倣したことによる「骨蝕丹」の熱毒が暴れ、みしみしと不気味なきしみを立てていた。


 柳雪楓はまだ疑わしそうな目をしていたが、彼の必死な様子に少し毒気を抜かれたように小さく息を吐いた。


「……確かに、実戦は非情なものですね。ですが、無名殿、あなたの剣には確かに助けられました。感謝します」


 彼女は懐から白雲剣派の最高級傷薬「白雲飛仙丹」の薬瓶を取り出し、彼の手元にそっと置いた。


「これを。経絡の乱れを和らげる効果があります。私はこれから、魔教の動きを探るために山麓の茶館へと向かいます。無名殿、もしよろしければ同行を――」


「ありがたいお誘いですが、俺には先に片付けねばならぬ野暮用がありましてな。またどこかで縁があれば」


 沈青言は丁寧に辞退し、編み笠を目深に被り直すと、彼女に背を向けて霧の奥へと歩み去った。柳雪楓の視線が彼の背中にしばらく注がれているのを、背後の皮膚が敏感に察知していた。その視線が完全に消えた瞬間、沈青言は路地裏の湿った泥壁に寄りかかり、激しく黒い血を吐き出した。


「がはっ……!」


 肺の奥が焼けるように熱い。朝廷の毒「骨蝕丹」の熱毒が、無理な内力の運行によって右腕から全身の十二経絡へと逆流しようとしていた。顔の皮膚に貼り付けた「千面草」の接着ゲルが、戦闘の熱気と脂汗によって微かに剥がれかけ、焼け付くような痒みを引き起こしている。「易容術の三原則」――熱水、発汗、表情の激変。その全てが、今の彼の肉体を脅かしていた。


(このままでは仮面が剥がれる……。急ぎ黒月峰へ戻り、薬翁の治療を受けねば。だがその前に、変装を維持するための『千面草の樹液』を補充せねばならぬ)


 無極殿の寝殿には、常に彼の些細な変化を監視する侍女・小梅がいる。薬草の香りを漂わせたまま寝室に戻れば、昨夜の不在と体調不良を確実に疑われる。沈青言は痛む右腕をかばいながら、人目を避けて「冥道」の隠し通路へと滑り込み、魔教の本拠地・黒月峰へと引き返した。


 彼が向かったのは、無極殿ではなく、黒月峰の中腹に佇む漆黒の石造りの要塞――「百毒閣」であった。ここは教団のあらゆる毒薬や秘伝の処方箋が保管されている猛毒の書庫であり、左長老・鉄鬼の監視下にある。沈青言は途中で一般の低級信徒の麻衣を盗んで着替え、顔の変装を一時的に整えて百毒閣の周囲へと忍び寄った。


 百毒閣の周囲には不気味な紫色の毒霧が年中立ち込め、空気は硫黄と腐食性の薬草の匂いで満ちている。見張りの信徒たちが交替する一瞬の隙を突き、沈青言は「影歩法」を起動した。光と影の隙間に身を滑らせるように移動し、足音を一切立てず、風の音に紛れて百毒閣の二階の窓へと取り付く。


 音もなく窓をすり抜け、沈青言は天井の太い梁の上へと張り付いた。息を完全に止め、自身の気配を周囲の湿った木材と同化させる。下を見下ろすと、薄暗い書庫のなかに無数の薬棚が並び、奇怪な色の硝子瓶が怪しく光っていた。


 カタ、カタ、カタ……。


 静寂を破り、不気味な金属音が響き渡った。沈青言は梁の上で身を硬くした。


 現れたのは、黒と紫の毒々しい衣服をまとった女性――左長老・鉄鬼の妹であり、教団内の暗器部隊を率いる「鉄蜘蛛」であった。彼女の指先には、蜘蛛の脚を模した奇怪な金属の爪がはめられており、その爪が触れ合うたびに冷たい音が響く。彼女は不気味な江南の子守唄をかすれた声で口ずさみながら、ゆっくりと薬棚の間を歩いていた。


「おや……おかしな風が吹いたねえ。虫ケラが一匹、迷い込んできたかねえ……」


 鉄蜘蛛が不敵に笑い、突如として指先を弾いた。シュッ、シュッ、と空気を切り裂く微細な音が響き、極小の毒針「鉄蜘蛛針」が無数の影に向けて放たれる。天井裏の沈青言は「絶対の観察眼」を起動した。世界が引き伸ばされたように遅くなるなか、鉄蜘蛛の肩の筋肉のわずかな収縮、指先の角度から、放たれた針の軌道を一瞬で見極める。


(右から三本、左から二本――)


 沈青言は梁の上で音もなく身を翻し、飛来する毒針をミリ単位の差で完璧に回避した。針は彼のすぐ脇の木材に深く突き刺さり、ジュッと不気味な紫色の泡を立てて木を腐食させていく。凄まじい劇毒だ。触れれば一瞬で経絡が溶ける。


 鉄蜘蛛が背を向け、別の薬棚の奥へと進んだ一瞬の隙を突き、沈青言は梁から音もなく飛び降りた。彼の足は床に触れる寸前、気のクッションによって衝撃を完全に殺している。目指すは、棚の最上段に置かれた、千面草の樹液が入った小さな青い硝子瓶だ。


 彼は手を伸ばし、硝子瓶を音もなく手中に収めた。目的は達した。あとはこの場を脱出するだけだ。


 しかし、彼が侵入した二階の窓枠へと再び飛び上がろうとしたその瞬間、彼の「絶対の観察眼」が、窓枠の表面に塗られた極薄の、無色透明の液体を捉えた。


(……腐食毒!)


 窓枠全体に、触れた皮膚を一瞬で溶かす罠が施されていたのだ。沈青言は強引に空中で身を引き戻し、床へと着地せねばならなかった。しかし、急激な軌道の変更により、右腕の激痛が走り、着地の瞬間に床の古いレンガが微かに沈んだ。


 コトッ。


 極めて微小な、だが静寂の書庫の中では致命的な音が響いた。


「そこかい!」


 鉄蜘蛛が鋭い悲鳴のような声を上げ、傍らの壁に設置された鉄のレバーを激しく引き下げた。


 ガシャン! ガシャン!


 凄まじい音と共に、百毒閣の全ての窓と扉から重厚な鉄の格子が降り、退路が物理的に完全に遮断された。それと同時に、壁の隙間から無数の自動弓矢が作動し、沈青言に向けて「鉄蜘蛛針」の雨が一斉に放たれる。


「侵入者め、生きてここを出られると思うな!」


 鉄蜘蛛は狂暴に笑い、両手から「千糸万毒網」を広げ、沈青言の逃げ場を塞ぐように網を投げつけてきた。網の糸には、触れるだけで肉を腐らせる猛毒が塗られている。自動矢の雨と、迫りくる毒網。内力が制限された沈青言にとって、これは文字通りの絶体絶命であった。


(ここで私の武功(無影功)を全開にすれば、経絡が破裂する。だが、鉄蜘蛛を殺せば、鉄鬼派との全面戦争が今この瞬間に始まり、私の潜入任務は破綻する……!)


 沈青言の脳裏に、凄まじい速度で計算が駆け巡る。生きて脱出し、かつ鉄蜘蛛の口を封じ、なおかつ彼女を殺さない唯一の方法――。


 彼は深く息を吸い込み、自らの主要な経穴を脳内で活性化させた。影衣衛の最高峰の極意、一度の使用で脳の経絡を極限まで疲弊させる諸刃の切り札を起動する。


「無声の領域・初撃」――!


 瞬間、百毒閣の中のすべての音が完全に消失した。自動矢が風を切る音も、鉄蜘蛛の狂ったような笑い声も、レンガが崩れる音すらも、まるで世界が死に絶えたかのように静まり返る。無音の三秒間。


 沈青言はその無音の空間の中を、影のように滑り抜けた。迫りくる毒網のわずかな隙間をすり抜け、自動矢の軌道を絶対の観察眼で回避しながら、鉄蜘蛛の死角へと一瞬で回り込む。彼女は突然目の前から侵入者が消えたことに驚愕し、目を見開いていたが、その喉から声が出ることはなかった。音がない世界では、悲鳴すらも伝わらない。


 沈青言は右手の指先を突き出し、鉄蜘蛛の頸椎の裏にある「大椎穴」を正確に貫いた。内力を極小の針のように圧縮した、完璧な点穴術だ。


「……ッ!」


 鉄蜘蛛の瞳から光が消え、彼女の体は糸の切れた人形のように床へと崩れ落ちていった。無声の領域が解除され、ガシャガシャと自動矢が壁に突き刺さる激しい音が、遅れて世界に戻ってくる。鉄蜘蛛は完全に意識を失い、一時的な経絡遮断によって数時間は目覚めない。沈青言は彼女を殺さず、ただ眠らせることに成功したのだ。


 しかし、彼が安堵のため息を漏らそうとした、まさにその瞬間だった。


 倒れゆく鉄蜘蛛の指先が、無意識の反射で彼女の仕掛け暗器の引き金を引いた。放たれた最後の一本の「鉄蜘蛛針」が、暗闇を裂いて沈青言の左肩を鋭くかすめた。


「くっ……!」


 沈青言は左肩を押さえ、激しく顔を歪めた。衣服が裂け、傷口から紫色の不気味な血が滲み出る。鉄蜘蛛の劇毒が、彼の体内に浸透した瞬間、彼の右腕に潜んでいた朝廷の毒「骨蝕丹」の熱毒が、まるで飢えた獣のようにその毒素と激しく反応し始めた。


 熱毒と劇毒が体内で衝突し、爆発的な気の暴走(相乗暴走)を引き起こす。全身の骨が「みしみしみし」と不気味な音を立ててきしみ始め、立っていることすら困難なほどの激痛が沈青言を襲った。視界が急速に暗くなり、経絡が内側から千切れるような感覚に襲われる。


(まずい……毒が、体内で暴走している……!)


 沈青言は震える手で千面草の硝子瓶を懐にねじ込み、鉄蜘蛛が倒れたことで作動が停止した窓の格子を強引にこじ開けた。外からは、異変を察知した鉄鬼派の巡回信徒たちの足音が、百毒閣に向かって急速に近づいてくるのが聞こえる。


 沈青言は激痛にのたうち回りながらも、夜霧の立ち込める窓の外へと身を投げ、闇の中へと消え去った。彼の左肩からは、黒い血が滴り落ち、地面の草を静かに枯らしていた。


 翌朝、彼を待つのは、鉄鬼派の分舵主・周平による、執拗な追及の嵐であった。

HẾT CHƯƠNG

Chưa có bình luận nào. Hãy là người đầu tiên!