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封印石室の青い光

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朝靄が華山の峻険な峰々を白く包み込む刻限、山頂の冷気は肌を刺すように鋭かった。


古小魚(コ・ショウギョ)は、亡き盟主・沈長青(シン・チョウセイ)の遺品である豪華な「金糸大袍」に身を包み、重々しい足取りで石廊を進んでいた。仕立ての合わない大袍は歩くたびに肩から浮き、小魚の細身の身体を余計に際立たせていたが、彼は「強者の歩行法」を必死に再現していた。一歩ごとに微かに左肩を沈める――長年重い剣を扱ってきた者独特のその癖を、喉元のかすり傷の痛みに耐えながら演じ続ける。


だが、今彼を支配しているのは、喉の傷など比べものにならないほどの激痛だった。左手首の内関穴。皮膚のすぐ裏側に埋め込まれた「脈象偽装用の銀針」が、一歩歩くごとに骨の奥をノコギリで削られるような鈍痛を放っている。昨夜、盲目の奇医・沈黙(ジン・モク)から授かった禁断の「脈象偽装術」の代償だ。痛みを麻痺させる「麻沸散」の効果はすでに切れかけており、極度の緊張も手伝って、慢性的な胃潰瘍が胃の腑を内側から焼き絞るように暴れていた。


「盟主、足取りが重いようだが、病の余波が残っているのか?」


隣を歩く三長老・独孤勝(ドッコ・ショウ)が、赤ら顔の巨躯を揺らしながら、値踏みするような鋭い眼光を向けてきた。背負った「玄鉄の大剣」が、歩調に合わせて低く不気味な金属音を立てている。その数歩後ろには、冷徹な美貌を湛えた盟主の実娘・謝青桜(シャ・セイオウ)が、物言わぬ影のように従っていた。彼女の視線は、小魚の首元、変装マスクの境界線を射抜くように冷たい。


「案ずるな、独孤勝。気の巡りを内省しているに過ぎん」


小魚は口元を動かさず、喉の奥を震わせて重厚な「死人の声」を響かせた。内心のパニックを完全に押し殺し、冷徹な仮面を被る。これこそが、泥棒として生き延びるために培った「嘘を真実にする心理術」だった。だが、額から滲み出る冷や汗だけは止められない。汗がマスクの接着剤を溶かせば、その瞬間にすべてが終わる。


やがて一行は、盟主府の最深部、切り立った岩壁をくり抜いて作られた重厚な石扉の前に到達した。扉に刻まれた古びた紋様が、ここが華山派の最重要禁地の一つ「封印石室(フウインセキシツ)」であることを示している。


「さあ、お入りくだされ、盟主。お体の神竜気功が万全であるか、先祖代々の測定石に証明してもらいましょう」


独孤勝が十トンはある巨大な石扉を、凄まじい内力をもって軽々と押し開けた。轟音と共に開かれた石室の内部は、氷窟のように冷え切っていた。その中央の祭壇に、不気味な青い光沢を放つ巨大な「内力測定石」が鎮座している。


この石に手を当てて内力を注ぎ込めば、その純度に応じて石がまばゆい青い光を放つ。内力を持たない凡人が触れても、石はただの冷たい岩塊のままだ。武功皆無の小魚にとって、ここは本来なら一瞬で嘘が暴かれる処刑場に等しかった。


しかし、小魚は絶望していなかった。彼は石室の四隅、天井近くに通じる古い換気口に目を走らせた。そこには、泥棒時代の唯一の相棒・包子(パオズ)が、趙無極から脅し取った一万両の裏金の一部を使って調達した「燐光粉(りんこうふん)」を抱えて潜んでいるはずだった。石室の裏側の配管をハッキングし、小魚が石に触れた瞬間に発光粉を空気圧で噴出させる――それが、二人が仕掛けた物理的なイカサマの全容だった。


小魚はゆっくりと祭壇へ近づき、右手を測定石の上にかざした。あとは触れるだけ、そう思った瞬間――。


「お待ちくだされ、盟主」


独孤勝の地鳴りのような声が石室に響いた。巨漢が突如として距離を詰め、小魚の左側に回り込む。


「石が光るだけでは、小細工の余地があろう。私のこの手で、直接お前の手首を握らせてもらう。内力が石に注がれるその瞬間、経絡を流れる『龍脈』の拍動を、我が指先で同時に確かめねば納得がいかん」


心臓が、跳ね上がるような衝撃を覚えた。謝青桜が後ろで微かに目を細める。二重のチェック。石の偽装だけでなく、直接の脈診を同時に行うという、想定外の危機だった。もし今、独孤勝に手首を掴まれれば、そこに流れるのは達人の脈などではなく、恐怖に震える凡人の、弱々しい泥棒の脈だ。


(しまっ……! これじゃ、石のイカサマだけじゃ乗り切れねえ!)


独孤勝の熊のような、分厚い手が小魚の左手首に向けて伸ばされる。その距離、わずか数寸。小魚の脳が、極限のパニック耐性の中で火花を散らすように高速回転した。避けることはできない。拒絶すれば、その瞬間に偽物と確定して首を刎ねられる。やるしかない。


手首を掴まれる、まさにコンマ一秒前。小魚は金糸大袍の広い袖の死角を利用し、右手の指先を素早く左手首の内側へと滑らせた。皮膚の裏側に埋め込まれた、あの冷たい金属の感触を捉える。


(沈黙のじいさん、頼むぜ……!)


小魚は覚悟を決め、手首の内関穴を狙って、皮膚の下の銀針を爪先で一ミリ、力任せに深く押し込んだ。物理的に経絡を圧迫する――。


「ぐ、うっ――!」


脳裏が真っ白になるほどの激痛が走った。骨の髄を直接熱した鉄串で突き刺されたような、凄絶な破壊的苦痛。肺からすべての空気が押し出され、心臓が悲鳴を上げて暴れ狂う。小魚は自らの奥歯が砕けるほど強く噛み締め、血を吐くようなうめき声を無表情の仮面の下に押し殺した。「嘘を真実にする心理術」が、彼の顔面を鉄のように硬直させ、激痛による心拍の乱れを、強引に「凄まじい内力のうねり」へと変換していく。


次の瞬間、独孤勝の分厚い指先が、小魚の左手首をがっしりと掴んだ。


「む……!?」


手首を握った瞬間、独孤勝の赤ら顔が驚愕に引きつった。彼の指先に伝わってきたのは、凡人の弱々しい鼓動などではなかった。それは、骨を突き破らんばかりに激しく、重厚に、そして不気味なほど規則正しく脈打つ、暴れ馬のような「龍脈」の拍動だった。沈黙が施した脈象偽装術が、小魚の心臓に極限の負荷をかけながら、天人合一の達人だけが持つとされる伝説の脈象を完璧に再現していたのだ。


「この、脈動は……! なんという重厚な内力だ……!」


独孤勝が息を呑む。だが、小魚に残された時間は、針が経絡を破壊するまでのわずか「五分間」。一秒の猶予もない。


小魚は激痛で視界がかすむ中、右手を測定石の表面へと力強く押し当てた。その瞬間、彼の指先が、石の表面に刻まれた微細な凹凸を叩く。ト、ト、トン――。泥棒時代の暗号、三回の手叩き(デコイ)。


石室の天井裏、暗闇の配管に潜んでいた包子が、そのかすかな振動を捉えた。


(よし、小魚、今だッ!)


包子が手元のバルブを全力で引き絞る。配管の奥で圧縮された空気が、測定石の台座の隙間に仕込まれた「燐光粉」を一気に押し流した。石の微細な亀裂から、極微細な発光粉末が空気中へと噴出する。


直後、測定石が、爆発するかのようなまばゆい青白い光を放った。


「おお……っ!?」


独孤勝は、目の前を埋め尽くした光の濁流に、思わず目を見開いた。青白い光は石室の冷たい壁を照らし、まるで本物の「神竜気功」が解き放たれたかのような、神聖で圧倒的な視覚効果を生み出していた。光の粒子が舞い散る中、小魚の金糸大袍が青く輝き、彼を本物の「武林の神」のように見せている。


独孤勝の指先には、依然として、小魚の左手首から伝わる、凄まじい「龍脈」の強打が響き続けていた。視覚を支配する圧倒的な青い光と、触覚を支配する底知れぬ達人の鼓動。二重のハッキングが、独孤勝の脳内の疑念を完全に粉砕した。


「これは……本物だ。本物の、神竜気功の極致……!」


独孤勝の身体から、戦意と不信感が一瞬にして抜け落ちた。彼は掴んでいた小魚の手首を震わせながら離し、その場にどさりと両膝をついた。大剣を背負った巨躯が、小魚の足元で小さく丸まる。


「盟主……! 我が無礼をお許しくだされ! お体の内力は失われるどころか、すでに生死の境界を超え、我らでは計り知れぬ深淵に達しておられたとは……!」


独孤勝が床に頭を擦りつける。後ろに佇んでいた謝青桜も、そのまばゆい光と、独孤勝の屈服を目の当たりにし、初めてその鋭い眉を微かに動かして沈黙した。石室を支配する圧倒的な青い光の中で、小魚は冷や汗を流しながら、静かに立ち尽くしていた。


しかし、小魚の左腕はすでに感覚を失いかけ、心臓は破裂寸前の悲鳴を上げていた。五分の制限時間は、すでに無慈悲に刻まれ始めている。

HẾT CHƯƠNG

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