Nhạc nềnRetroRPG_Battle

無音の真空壁

Audio truyện
Chưa có audio. Bấm để tự tạo audio cho tập này.

死線が、すぐ目の前で泥水を赤く染めていた。


 上空わずか三メートルの位置でホバリングする帝国軍の自律型偵察ドローン。その下部から照射される血のように赤いサーチライトが、陣の履き古したブーツのつま先から、わずか数センチメートルの瓦礫をなぞっている。じりじりと熱線を帯びた光が泥水を蒸発させ、かすかな硫黄の臭いを伴う水蒸気が立ち上っていた。


「く、ふぅ……っ、ごほっ……!」


 鉄二の「電磁シールド防弾ベスト」に口元を覆われた紗季の胸が、激しく痙攣した。目詰まりした「クリーン・コア」のせいで、彼女の肺は限界に達している。防弾ベストの厚い繊維の隙間から、くぐもった、しかし確実に空気を震わせる喘鳴が漏れ出そうとしていた。


 ブゥゥゥゥゥン――


 ドローンの駆動ピッチが、さらに高音へと跳ね上がる。超高感度ソナーが、その微細な空気の疎密波を感知したのだ。赤いサーチライトの光軸が、不気味に静止し、陣たちの隠れるコンクリートビルの影へと焦点を絞り込んでいく。


(まずい……見つかる。一秒後には、この瓦礫ごと焼き払われる)


 陣の脳内で、冷徹な生存計算が火花を散らした。左手首の「脈動計」は、すでに安全限界を突破した「一四六mmHg」を赤く点滅させている。首元の「抑制リング」は異常発熱を起こし、頸動脈の皮膚をじりじりと焼き焦がしていた。脳圧は、あとわずか四mmHgで一五〇に達する。そうなれば、リングのセーフティ機能が働き、陣は強制的に仮死状態へと叩き落とされるのだ。


 コートのポケットの中、陣の指先は「高血圧抑制ナノカプセル」の小瓶に触れていた。だが、慢性的な脳圧過多による運動麻痺のせいで、指先は氷のように冷たく硬直しており、蓋を開けることすらできない。


(鉄二にカプセルを開けてもらう時間はない。ドローンを直接『ベクトル反転』で破壊するか? ……だめだ。この距離で爆発を起こせば、その轟音と信号途絶によって、周囲を警戒する帝国軍の地上部隊が一挙に押し寄せる。それに、マッハの徹甲弾とは違う。三メートル先のドローンを直接操作するには、僕の脳圧が一五〇mmHgを超えて即死するリスクが高すぎる)


 ならば、取るべき戦術は一つだけ。敵を破壊するのではなく、その『目』と『耳』を完全に無力化する。


(ランクC――『多重ベクトル偏向』。音波振動反射・防音壁生成アルゴリズム、起動……!)


 陣は、激しい偏頭痛で割れそうな頭を強引に駆動させ、自身の周囲一メートルの空間に存在する「空気分子の熱振動ベクトル」を網膜の格子に描き出した。ドローンが放射する索敵ソナーの音波、そして紗季の口元から漏れ出る喘鳴――それらはすべて、空気という媒体を伝わる「疎密波(物理的な運動ベクトル)」に過ぎない。


 陣は目を閉じ、自身の皮膚から一メートルの同心円状の境界線を設定した。その境界線を通過しようとするすべての音波振動に対し、その位相を完全に百八十度反転させた「逆位相ベクトル」を並列で演算し、衝突させる。


 ごきっ、と、脳の最深部で、太い鉄線が引きちぎられたような異音が響いた。


「う、ぐ、あぁ……っ!!」


 こめかみの血管が、破裂せんばかりに膨れ上がる。脈動計の液晶が、一四六から一四八mmHgへと冷酷に跳ね上がった。右目の視野を覆う血の赤霧がさらに濃くなり、左耳の奥で、キィィィンという鼓膜を裂くような金属音が鳴り響いて、一時的に聴覚が完全に消失した。首元の真鍮リングからバチバチと青い放電火花が散り、肉の焦げる悪臭が立ち上る。


 しかし、その代償と引き換えに、奇跡が起きた。


 陣たちの周囲一メートルの空間から、すべての「音」が完全に消失したのだ。


 激しく降り注ぐ酸性雨が瓦礫を叩く音も、吹き荒れる風の唸りも、紗季の苦しげな咳も、鉄二の激しい心臓の鼓動すらも。その境界線に触れた瞬間、すべての疎密波ベクトルは打ち消され、絶対的な「真空の無音ドーム」へと変換された。雨粒は、陣のシールドの表面で不自然に直角に折れ曲がり、無音のまま外側へと滑り落ちていく。


 上空のドローンの挙動が、一瞬にして乱れた。


 ドローンの受信機が検知したのは、完全な「空白(ゼロ)」。環境音すら存在しない、物理的にあり得ない「無音の真空壁」が出現したことで、ドローンの自律AIは「ソナーの物理的故障」または「受信回路のエラー」と判断したのだ。ドローンはシステムを再起動するため、不気味な警告赤色灯を点滅させながら、ゆっくりと上空へ向けて上昇を開始した。


「今だ……鉄二、ハッチを……!」


 陣は、血の混じった唾液を吐き出しながら、掠れた声で囁いた。聴力を失った左耳のせいで、自身の声すら遠く聞こえる。


「おうっ!」


 鉄二は、ドローンが上昇した一瞬の隙を見逃さなかった。彼は紗季を片腕で抱き抱えたまま、半壊したコンクリートの床に埋もれていた錆びた鉄のハッチ――難民キャンプ地下壕「ひだまり荘」への入り口へと飛びついた。


 キィ、キィィィと、泥と錆にまみれた鉄の取っ手が、鉄二の生身の怪力によって強引にこじ開けられる。重厚な鉄の扉が開き、地下から湿ったカビと重金属の臭いが立ち上った。


「陣、滑り込め!」


 陣は、すでに感覚の失われかけた左足を引きずりながら、ハッチの縁へと身体を寄せた。このまま普通に飛び込めば、硬直した肉体は瓦礫に激突し、その衝撃音でドローンが再び覚醒する。陣は最後の力を振り絞り、自身の慣性を一時的に相殺する「質量ゼロ化」を起動した。


 彼の身体から「重さ」というベクトルが一時的に消滅する。陣の身体は、羽毛のようにふわりと浮き上がり、ハッチの暗闇へと吸い込まれるように滑り落ちた。激突の衝撃も、衣類が擦れる音すらも立てず、彼は地下壕の冷たいコンクリートの床へと音もなく着地した。


 直後、鉄二がハッチの中に滑り込み、頭上の重い鉄扉を静かに閉めた。ズシン、という鈍い振動が、地下の閉ざされた空間に響き渡る。ドローンのサーチライトと雨音は、完全に遮断された。


「はぁ、はぁ、はぁ……っ!」


 ハッチが閉まった瞬間、陣の「無音の真空壁」の演算が解け、世界の音がドッと耳に押し寄せた。だが、陣の肉体はすでに限界を迎えていた。脈動計は一四八mmHgを表示したまま点滅を続け、首元の抑制リングは触れることもできないほど熱くなっている。


「おい、陣! 薬だ、薬を飲め!」


 鉄二が、陣のコートのポケットに強引に手を突っ込み、冷たく硬直した指先から「高血圧抑制ナノカプセル」の小瓶を奪い取った。彼は手早く蓋をこじ開け、金色の液状カプセルを陣の口元へと押し込んだ。


「飲み込め、陣!」


 陣は、鉄二の言葉に従い、喉の痙攣を堪えながらカプセルを強引に飲み下した。喉を通り抜けたナノマシン製剤が、瞬時に食道から吸収され、彼の頸動脈へと流れ込んでいく。ナノマシンが脳血管の弾力性を一時的に十倍に高め、過熱した血管を内側から冷却していくのが分かった。


 ドクン、ドクンと、不気味に跳ね上がっていた心拍が、徐々に落ち着きを取り戻していく。脈動計の数値が、一四八から、一四二、そして安全領域に近い一三五mmHgへと静かに降下していった。右目の視野を覆っていた赤い霧が引き、左耳のキーンという金属音も、徐々に遠ざかっていく。


「助かった……ありがとう、鉄二……」


 陣は冷たいコンクリートの壁に背中を預け、激しい虚脱感の中で呼吸を整えた。隣では、紗季が鉄二の防弾ベストを口元から外され、地下壕のわずかに濾過された空気を「ひゅう、ひゅう」と必死に吸い込んでいる。彼女の呼吸はまだ荒いが、命の危機は脱したようだった。


 薄暗い地下壕「ひだまり荘」の通路。湿ったコンクリートの壁には、古い配管が錆びた這い回るように伸びており、天井からは酸性雨の漏り水がぽつり、ぽつりと床の泥濘に落ちていた。ここなら、上空のドローンのセンサーも届かない。


「ふぅ、全く、心臓が止まるかと思ったぜ。お前のあの『音が消える魔法』がなけりゃ、今頃俺たちは全員、消し炭になってたな」


 鉄二は脱臼しかけた肩を回しながら、不敵に笑った。だが、その表情には、陣の肉体がこれ以上の戦闘に耐えられないことへの、深い懸念が滲んでいた。


 その時だった。


 地下壕の暗い通路の奥から、激しい足音がこちらへ向けて走ってくるのが聞こえた。水たまりをバシャバシャと跳ね上げる、小さく、しかし異常に焦った足音。


「陣アニキ! 鉄二のボス!」


 現れたのは、ボロボロのオーバーオールを着た少年――スラムの孤児ネットワーク「ロスト・アイズ」のリーダー、タクトだった。彼は肩を激しく上下させ、顔中に泥と冷や汗をにじませながら、陣の前に膝をついた。


「タクト? どうした、そんなに慌てて……」


 陣が不穏な予感に眉をひそめた瞬間、タクトは泣き出しそうな声を振り絞って、絶望的な知らせを口にした。


「源さんの店が……! 帝国の特殊追跡部隊『ベクター・ハンター』に包囲された! ハインツとかいう分隊長が、源さんを拘束して、お前の『抑制リング』のマスターキーを吐かせようと拷問を始めてるんだ……!」


 陣の心臓が、冷たい氷水を注がれたように一瞬で凍りついた。脈動計の数値が、再び静かに跳ね上がろうと、液晶の奥で怪しく明滅し始めた。

HẾT CHƯƠNG

Chưa có bình luận nào. Hãy là người đầu tiên!