Nhạc nềnRetroRoman_Battle

蛇の眼を喰らう瞬間(とき)

Audio truyện
Chưa có audio. Bấm để tự tạo audio cho tập này.

「ゴホッ、がはっ……!」


肺を内側から直接焼き焦がすような、紫の毒霧が気道を塞ぐ。どす黒い血が口から溢れ、廃倉庫のコンクリート床に滴り落ちた。ネオンの濁った光が水たまりに反射し、朔の歪んだ視界を極彩色に染め上げている。


心臓が停止するまで、おそらくあと一分もない。


神経毒の麻痺はすでに全身に回り、指先を動かすことすら困難なはずだった。だが、朔の左目の奥、漆黒の深淵に染まった瞳だけは、冷徹な光を失っていなかった。たった今、倒れた黒蛇会の売人の死体から「プロファイリング・サイキック」で喰らい尽くした記憶――死者の最期の視界が、朔の脳裏に明確な逆転の座標を指し示していた。


(天井の換気扇制御盤の裏。特定のネオン看板の影……あそこだけが、上層からの排気が吹き下ろす『風上』だ)


サジが己の毒に侵されずに立っていられる、絶対の安全地帯。そこへ至る道筋は、すでに朔の脳内に完璧な捜査マップとして構築されていた。


「はあ、はあ……っ」


朔は感覚のない右腕を泥水から引きずり出し、足元の薄い影へと意識を沈めた。喉の奥に眠る「影狼」のソウルが、主の危機に呼応して狂暴に蠢く。


「影の潜行(シャドウ・ステップ)」


朔の肉体がドロリと影の中に沈み込む。物質的な毒霧を透過し、影の波形となった朔は、床を這う一筋の漆黒の矢となって超高速で移動した。毒による麻痺のせいで影の結合が解けかけ、脳を直接万力で締め付けられるような激痛が走る。それでも、朔はコンマ数秒でサジの死角である換気ダクトの真下、ネオン看板が落とす濃い影の内部へと滑り込んだ。


影から這い出た瞬間、乾いた冷たい空気が肺に流れ込む。そこは確かに毒霧の薄い風上だった。激しく喘ぎながら、朔はトレンチコートの裏から左手で「特殊タクティカル・ナイフ」を引き抜いた。右腕はすでに手首の上まで完全に結晶化し、物理的な触覚を失っている。今の彼に、右手で精密な武器を操ることは不可能だった。


「おや、死に損ないのネズミが、どこへ消えた?」


ダクトの真下、制御盤の陰からサジが首を傾げ、不気味に周囲を見回した。その細身で猫背の背中が、朔の目の前、わずか数メートルの距離にあった。


朔は躊躇なく、左手のタクティカル・ナイフをサジの背後へ向けて投擲した。超振動セラミックの刃が、空気を切り裂く無音の風となって翔ぶ。


だが、サジの警戒心は並外れていた。直感的な危機感に突き動かされたサジは、異常な反射速度で身を翻し、ナイフの軌道を辛うじて躱した。漆黒の刃はサジの頬をかすめ、背後の制御盤に深く突き刺さって火花を散らす。


「そこか……!」


サジの色の薄いサングラスの奥で、蛇のような瞳がぎらりと光った。


朔はすかさず足元の影を伸ばし、サジの首を絞め落とそうと「影の触手(シャドウ・テンタクル)」を放った。しかし、全身を蝕む神経毒の麻痺が、影のコントロール精度を著しく低下させていた。うねる影の触手はサジの首元をかすめるに留まり、彼の襟を裂いただけで、虚しく背後の木箱を粉砕するに終わった。


「往生際が悪いな、探偵さん!」


サジが狂おしく嘲笑する。彼は腰のボトルから不気味な緑色の液体を周囲にぶち撒け、能力の出力を最大に引き上げた。空気中の水分が急激に毒化し、朔を取り囲むように、これまでにない濃度の紫色の毒霧が立ち込める。一呼吸でも吸い込めば、今度こそ心臓が即座に停止する致命的な濃度。サジは勝利を確信し、その場から一歩も動かずに朔を圧殺せんとした。


(まともに戦えば、俺の心臓が先に止まる。なら――)


朔の脳内で、冷徹な探偵のロジックが弾けた。サジは「毒が自分に効かない風上」にいる。ならば、その超至近距離こそが、奴の懐こそが、最も安全な場所だ。


「影の柩(シャドウ・コフィン)……!」


弾丸や爆風を透過する、朔にとっての最後の物理シールド。全身の細胞を一時的に質量のない影へと変化させる禁忌の技術。発動した瞬間、朔の肉体は漆黒の霧状の影へと変貌し、サジが放った最大濃度の毒霧を何もないかのように透過した。物理的な干渉を完全に無効化し、朔は一瞬でサジの目の前へと踏み込む。


「な、にいっ……!?」


霧を透過して突如目の前に現れた朔の姿に、サジの顔が驚愕に歪んだ。しかし、サジもまた下層を這い上がってきた修羅の一人。咄嗟に袖口から護身用の毒針を抜き放ち、朔の剥き出しの喉元へ向けて超高速で突き出した。


回避は不可能。影の柩の維持限界はすでに切れている。


「が、ああっ!」


朔は避ける代わりに、自身の左手を盾として突き出した。鋭い毒針が朔の左手の掌を物理的に貫通し、手の甲から血塗られた針先が突き出る。肉が裂け、骨が軋む激痛。だが、朔は溢れ出る血をものともせず、左手の指を力任せに曲げてサジの腕を完全に固定した。


肉を斬らせて、骨を断つ。サジの動きは完全に止まった。


「しまっ――」


「捕まえたぞ、サジ」


朔の左目が、嘘の色彩を捉える。サジの顔から立ち上る、死への恐怖と驚愕が混ざり合った、鮮烈な「血の赤色」の色彩。


朔は、感覚のない右腕をポケットから引き抜いた。手首の上まで漆黒の生体結晶に変異したその手を、サジの額へと容赦なく押し当てる。物質としては存在しないはずの、光を一切反射しない漆黒の鏡――「魂喰らいの黒吸鏡(コクキュウキョウ)」が、朔の魂の最深部で狂おしく回転を始めた。


「記憶喰らい(メモリー・イート)」の手順が、不可逆的に始動する。


「ひ、ぎっ、ああああああああああッ!」


サジの目、耳、口から、青白い光を帯びた「記憶の霧」が奔流となって吸い出され、朔の右手の結晶を通じて彼の体内へと流れ込んでいく。それは、他者の魂を直接貪り食う、悍ましくも圧倒的な快感を伴う強奪だった。


朔の脳内に、サジの全人生の映像が、凄まじい質量で直接焼き付けられていく。下層の薬物売人としての狡猾な処世、他者を毒殺した際のサディスティックな愉悦、黒蛇会のドラッグ精製ルート。そして――最深部の暗闇から、朔が求め続けた『真実』が引きずり出された。


(蓮の死体の前に立つ、黒い高級スーツの男。首元に蛇のタトゥー。重力を操る、黒蛇会若頭――黒崎)


『こいつの脳を抉り取って、オブリビオンへ納品しろ。神の記憶が眠っているはずだ』


記憶の中の黒崎が、冷酷に命令を下していた。蓮を直接殺害し、その脳を奪うよう指示した犯人の顔が、朔のニューロンに鮮明に転写される。


「蓮を殺したのは……黒崎……!」


復讐の炎が朔の胸中で激しく燃え上がる。同時に、サジの肉体から完全に生命力が失われ、彼のサイキック能力「水分毒化」が、朔の影の深淵に「毒針のソウル」として幽閉されていくのが分かった。スレッドの枠が、不気味な青い光で満たされていく。


「が、はっ……う、ああっ!」


強奪が完了した瞬間、凄まじい反動が朔の肉体を襲った。右腕の結晶化が急激に熱を帯びて侵入し、肘の上まで一気に漆黒のガラスの鱗が覆い尽くしていく。右腕の物理的触覚は完全に消失し、凍りついた石のようになってしまった。


サジの死体は、糸の切れた人形のように泥水へと崩れ落ちる。倉庫を覆っていた毒霧が、嘘のように霧散していった。


しかし、本当の地獄はここからだった。激しい耳鳴りの中、朔の脳内に、喰らい尽くしたはずのサジの残虐な人格の声が、はっきりと響き渡ったのだ。


『ひはははは! 喰らったな、探偵さん。俺を喰らった気分はどうだ?』


脳内の暗闇に、殺された蓮の悲痛な絶叫と、サジの不気味な嗤い声が同時に響き渡る。二つの声が朔の精神を内側から引き裂き、彼の自我の境界を激しく揺さぶり始めた。

HẾT CHƯƠNG

Chưa có bình luận nào. Hãy là người đầu tiên!